第23章 惣菜屋さんの筑前煮 後編 お相手:煉獄杏寿郎
気難しいで有名な 彼の父親とも
このぐらいには
会話が出来る様になっていた
と 言うのも
あの顔合わせの直ぐ後から
杏寿郎さんは
長期のお仕事に出てしまって
しばらく ここを離れていたのだが
あの時に
こちらから伺うと言っていたのを
あちらは律儀に守って下さって
家に本当に来た時には
私は驚きのあまり
開いた口が
塞がらなくなってしまったのだが
トキ叔母さんと槇寿郎様が
知り合いだったので
それは それで驚いてしまって
私は2人の顔を交互に見てしまった
それから 彼が杏寿郎さんが仕事の時に
筑前煮を買いに来ると言う名目で
槇寿郎様は うちにちょくちょく
足を運んでくださる様になった
千寿郎君が 前に店に来た時に
父上はうちの筑前煮しか
お召し上がられないのです と
教えてくれた時の 槇寿郎様の顔が…
ってつい思い出してしまっていた
和室に置いたちゃぶ台に
みくりが2人に淹れたお茶を置いた
「すいません。ありがとうございます。」
頂きますと千寿郎君が
礼儀正しく言うとお茶に口をつけた
「みくりさん…」
改まって 名前を呼ばれて
その場に正座をして
槇寿郎の方へ向き直る
「はい。何でしょうか?」
「その、…貴方の、
ご両親に手を合わせたいのだが」
「え?ええ。どうぞ。きっと
両親も喜ぶと思います」
見ている
みくりにも不思議な光景だった
どうして 煉獄家の主が
うちみたいな 小さな惣菜屋の仏壇に
手を合わせているのだろうかと
そんな 疑問を抱きながら
仏壇に手を合わせている
槇寿郎の横顔を眺めていると
その赤い目がこちらを向いて
視線がぶつかってしまった
「どうせ…だしな。
少し、…昔話でも…。
なに、聞き流して頂いて構わない」
そう言って 槇寿郎様は
私の方に見ていた視線を
仏壇の隣の壁に掛けてある父の遺影に移した
そしてその遺影の 遥か向こうを
目を細めて見つめて
ぽつりぽつりと話を始めた