第103章 ある夫婦の3月のお話 お相手:煉獄杏寿郎 現代パロ
蝶屋敷のベッド上で見た
みくりの姿は
最後に見てから数か月経っていたが
一回りにも二回りにも
痩せた様に小さく見えた
杏寿郎の代りに…俺が彼女に
出来る事として思いつく事がそれしか
槇寿郎には思付かず
そう申し入れをしたのだが
その腹の中の子を産む事を…
選んだのだとも胡蝶しのぶから聞いた
その延命の為の眠りにつけば
もう二度と…その時が来るまでも
その時が来たとしても目を醒ます事は無い
こうして…言葉を交わせるのも
数日後にその為の処置を受けるまでの
今しかない…
『みくりさん、俺は…
杏寿郎に父親らしい事を…してやれなかった。
杏寿郎も…、その子の為に
父親らしい事は…する事も出来ない。
生まれて来るその子を、煉獄の家で
引き取らせてはくれまいか?』
本来であるならば
ちゃんとした祝言を挙げさせて
ふたりの子として迎えるべき存在だ
その子の本来あるべき場所を
その子の祖父として与えたいと
槇寿郎は自分の想いをみくりに話した
彼女の意思が変わる事もなく
槇寿郎の言葉を受け入れてはくれなかった
『私は…、杏寿郎さんの…
妻になるべき存在ではないですから…。
槇寿郎様の申し出をお受けする訳には
行きませんので。そのお気持ちと、
お言葉だけ…で、私は…十分にありますので』
その否定の裏にあるのは
負い目であり 遠慮だった
「貴方?」
隣で瑠火が自分を呼ぶ声がして
はっと槇寿郎が現実に引き戻される
あの時の杏寿郎が…
彼女にみくりさんに
出来なかった事を…
今の杏寿郎は伝える事が出来たのだろうな
「瑠火」
「はい、どうされましたか?貴方」
「瑠火、お前の目には…。
あの2人は…、どう映っている?」
槇寿郎の言葉に瑠火が
杏寿郎とみくりの方へ目を向けて
それから微笑を浮かべながら
槇寿郎の方へその顔を向けて来ると
「私の目…には、幸せそうに見えますが。
貴方の目には、あのふたりは。
そうは…、お見えにはなりませんか?」
槇寿郎が目を伏せると
いや…と小さく首を左右に振る
「そう…、見える…な。俺にも」
「でしたら、何も…。
ご心配には及びませんよ?貴方」
「ああ。そうだな。
変な事を聞いた、忘れてくれ。
歳を取ると、おかしな事ばかり考えてしまう」