第22章 惣菜屋さんの筑前煮 前編 お相手:煉獄杏寿郎
「あの、槇寿郎様は…。私の母を
ご存じ…であられるのですか?」
ふと湧いて来た疑問を
投げ返してしまっていた
「…血は…争えんと言う事…か。
貴方は…、えっと、
みくりさんと言われたか。
静江さんが、若い頃のお話は
…ご存じであられるか?」
「母が、若い頃の話…と申されますと?」
そう 槇寿郎の問いかけに
返してはみたものの
母が 母の静江が若い時の話
トキ叔母さんから何度か聞いた事がある
母さん自身は 自分のそう言う
自慢話みたいなのは しない方だったので
私の母である 静江は
この辺りでも一番と言われる程に
有名な美人だったらしく…
母に求婚した男性が 沢山居たと言うが
その求婚した 男性の中には
名家のお坊ちゃんも居たとか…
名家のお坊ちゃんと言うのを
思い出して
みくりは目の前の槇寿郎の顔を見て
まさかねぇと その考えは否定したが
でも 数ある求婚の中から 母が選んだのは…
大店の呉服屋の息子でもなく
医者の男でもなく
ましてや
教師をしていた男性でもなく
只の惣菜屋だった 父で…
父がめちゃくちゃ男前の
美男子だったのかと言えば
その様な事もなくて
どこにでも居るような 普通の人だった
「いえ、母は生前…
若い時の話はしたがりませんでしたので」
「そうか。だが…貴方を見ていると。
確かに静江さんに良く似ておいでであるが。
お父上にも…、雰囲気が似ておられる。」
槇寿郎から
自分の父に関する話が出て来て
みくりは少し驚きつつも
「私の、父を
ご存じ…であられるのですか?」
自分の父を知っている口振りで話す
槇寿郎に問いかけた
「貴方のお父上には、
世話になった事がある。まさか…あの時
お連れになっていたお嬢さんが。こんな形で
家に来るとは…、思っても居なかったが。
杏寿郎から、貴方の名前を聞いてもしやと…
思っては居たが、そうだった様だ」
そう 自分の中で
何かに納得が行ったかの様にして
槇寿郎が静かに言った