第22章 惣菜屋さんの筑前煮 前編 お相手:煉獄杏寿郎
その後は
重い程の沈黙が続いた
一秒 一秒が
こんな風に 長いと
感じたのは
生まれて 初めてなのかも知れない
ああ そうだ お土産っ
手土産にとトキ叔母さんから
預かったアレがあったのを思い出した
「す、すいませんっ!!これっ、
つまらない物ではありますが。
お納め下さい」
そう言って みくりが
槇寿郎にトキから預かった
西田屋の羊羹を手渡した
みくりが差し出した紙袋を
槇寿郎は訝しい顔をしながら
まじまじと見ていて
「ほぅ…、これは、
もしや西田屋の…、羊羹か」
「え、ええ。そうです。
これは、西田屋の羊羹ですが…」
ふっと僅かに
槇寿郎の口の端が上がった様な
そんな様に 見えた気がして
まじまじとその顔を
無意識に見てしまって居た物の
気の所為だったのかと思って居ると
「わざわざ、
…気を遣って頂いて、すまない」
「いえ、それは私の叔母が
用意したものですので、私は何も…っ」
「それはそうだろう。
これは朝から並ばないと
買えない代物だし、貴方には
午前中、店があったんだ。
西田屋の羊羹は
…亡くなった妻の好物だった物」
そう言って 槇寿郎は
自分の手にある紙袋を
懐かしむ様に見つめていて
今は亡き妻を
思い出している様子だった
「すいません、
何も知らずとは言えど…」
「貴方の所為ではない、
謝ってもらう必要もない。
それに、西田屋の羊羹は入手困難だ。
随分と、久しくもある…。」
こちらをじっと見る
その目と視線がぶつかった
杏寿郎さんと同じ瞳なのに
槇寿郎様からは夏の太陽の様な
そんな熱を感じないのは…何故?
「貴方の顔を見ていると、昔を思い出す…。
面差しが良く…似ておいでであられる様だ」
槇寿郎が 目を細めながら
みくりの顔を見ていた
見ているのだが
見ているのは 私ではなくて
どこか遠くを見ている様であり
槇寿郎様が見ているのは
私と良く似た… 母の影なのだろうか