第22章 惣菜屋さんの筑前煮 前編 お相手:煉獄杏寿郎
「その内、櫛でも
贈ってくれるんじゃないのかい?」
「ああ、でも
祭りの時に簪なら貰ったけど…」
「簪?受け取っちまったのかい?」
「でも、今は大正だからって
…そんな意味じゃないからって…」
「そうは言っても、そんなもん
本人じゃないと、わからないもんさ。
はい。これでよし」
仕上げに 母さんの形見の簪を
纏めた髪にトキが挿した
「ほら、御覧よ。
どこに出しても恥ずかしくない。
別嬪さんの娘さんの、完成だ」
そう言ってトキが
みくりに鏡の中の自分を
見る様に促して来て
「もう、トキ叔母さんったら…。
私は、もうとうが立ってるからって
トキ叔母さんが言ったんでしょう?
娘さんじゃないわ」
後ろからみくりの両肩に手を添えて
軽くつかむと 肩の辺りにトキが
顔を寄せて来て
鏡を通してトキと視線がぶつかる
「煉獄の坊ちゃんと
付き合う様になってから、
いい女になったじゃないか。
あそこの旦那さんは…、
ちょいとばっかし、気難しい感じもするが。
あの坊ちゃんの父親だからね?
それに、アンタだったら大丈夫だよ」
それは トキ叔母さんにはまるで
何もかも分かってるんじゃないかって
そうも思ってしまうような
そんな不思議な力がある
ガラガラと店の戸が開く音が聞こえて来て
「みくりさん。杏寿郎です。
お迎えに上がらせて頂きましたが、
ご準備はよろしいでしょうか?」
「噂をすれば…、
お迎えが来たみたいだね。行っといで。
お土産、ちゃんと渡しといておくれよ?」
はいっと西田屋の羊羹の入った
紙袋をトキに託されて
迎えに来てくれた
杏寿郎と共に店を出た
「まだ、惣菜残ってんだし、
アンタの留守の間、店番しとくから」
そう言って ふたりをトキが見送ると
店の入り口の張り紙を剥がす
「ああ、でもあれだね。
煉獄の坊ちゃんが夜に食べる分。
置いておかないとだねぇ」
トキが小さくなっていく
2人の後ろ姿を見ながら
そう漏らすように言った