第22章 惣菜屋さんの筑前煮 前編 お相手:煉獄杏寿郎
無意識に 引き留めたいと
もっと 一緒に居たいと…
引き留めたい
彼を自分の所に…
きっと この行動は
そんな 心情の表れでしかなくて
その 私の手の上から
彼に手を重ねられて
ギュッと握りしめられる
「その様に…愛おしい貴方に
いじらしい事をされてしまっては、
男として…応じずには
居られなくなってしまいそうですが?
自覚があっての行動…、
であられるのであれば…。
このまま帰るのは、憚られると言う物だ」
そっと両方の頬に
手を添えられてしまって
その熱い視線に 囚われてしまって
逃れられない
「みくりさん…、
貴方のお答えを頂きたいのですが?
貴方のその口から…、
俺に教えて貰えませんでしょうか?」
「すいません…。お帰りになりにくく
なるような、
紛らわしい事を致しまして…」
そっと 頬に添えられていた手が
私の頬を撫でて 耳の縁をなぞる
「貴方も、意地が悪い…。
俺が欲しい言葉は、
そんな言葉ではないのですが?」
そうは 言われてしまっても
帰ると言っている彼を
これ以上私の我儘で
ここに 引き留めてしまうのは…
「…貴方次第…であるのですが?
みくりさん」
ちらりと盗み見た彼のあの
夏の太陽の様な赤い目が
揺らいでいるのが見えた
「もう少しばかり…」
彼の胸元の着物をギュッと握りしめて
自分の身を彼に寄せる
「もし、叶うのであれば…、
もう少しばかり私の、
私だけの、杏寿郎さんで居て
…頂く事は可能でしょうか?」
彼の胸に自分の顔を引っ付けて
そう彼に懇願すれば
ギュッと包み込む様に
杏寿郎の腕が
みくりの身体を包んで来て
「俺が、貴方のお願いに弱いのは…。
貴方が一番ご存じのはずだが?
違っていただろうか?
みくりさん…、その願い通りに
俺を…貴方の俺で在らせて頂いても?」
その問いかけに
みくりは静かに頷いた