第22章 惣菜屋さんの筑前煮 前編 お相手:煉獄杏寿郎
美味しそうにそれを平らげる
彼を見ていると
自然と笑みがこぼれてしまっていた
「あの…、みくりさん。
何か、ありましたでしょうか?」
「え、いえ、…杏寿郎さんはいつも、
美味しそうに
お召し上がりになられるので。
見ていると、幸せな気持ちなります…」
ここに 付いてますよと
みくりが杏寿郎の口の横についた
生クリームをおしぼりで拭う
「すいません。俺とした事が
食べる事ばかりに、夢中になってしまって
気が付かなかったようだ。
お恥ずかしい限り。
でも…、貴方とここに来れて良かった。
ここの事は以前から知ってたのですが…」
彼は忙しい身で
私も店をしてる手前
あまり遠出をしたりは出来ないが
こうして
ちょっとした時間を共有する
そんな 日々が
とても 温かく感じてしまって
幸せな時間なのだと…思えて仕方ない
フルーツパーラーを後にすると
彼が店まで送ってくれて
「貴方とこのまま、
お別れしなければならないのは。
名残惜しいのですが、
あまりこちらばかりにお邪魔すると、
弟に顔向けができなくなりそうなので。
みくりさん。
この次の時は…、こちらで過ごしても?」
別れ際にそう
確認を取る様にして耳元で囁かれると
彼の 杏寿郎さんの吐く息が
耳をくすぐるのを感じる
「ああ。
ひとつ…お聞きしたい事がありまして…」
そう彼が
先程までの甘い雰囲気だったのを
そう打ち消して来ると
真剣な面持ちになってこちらを見て来て
「聞きたい事…ですか?」
「貴方の店で出されている、
筑前煮の事です」
うちで 出している
筑前煮がどうかしたのだろうか?
「筑前煮…ですか。
あれは私の父が得意としていた
うちの看板の惣菜ですが…。
それがどうかなさいましたか?」
「そうで…したか。貴方のお父上の…。
ああ、今日は筑前煮はあるだろうか?」