第22章 惣菜屋さんの筑前煮 前編 お相手:煉獄杏寿郎
「ええ。昨日の夜に、戻りました。
みくりさん。
お忙しい所、申し訳がないのですが。
少しばかり…俺の為に時間を
割いては頂けないでしょうか?」
一体何だろうと言いたげに
みくりが小首を傾げながら
杏寿郎の方を見て居て
「ええ、少しであれば
…構いませんし。中にどうぞ?」
「いや、…上がり込んでしまって
長居をしてしまうのも
良くはなさそうですので。あちらで」
そう言って 店の軒先にある
竹の長椅子の方を杏寿郎が指さした
その長椅子に二人並んで腰を降ろした
こうして この椅子に
並んで座るのは
あの時以来…かも知れないけども
ちらりとみくりが
自分の隣に座る
杏寿郎の横顔を見た
あの時は 拳三つ分位の距離だったけど
ピッタリと 隣に寄り添っている
この距離が…
今の私と 杏寿郎さんの距離
そう思うと この距離感が
愛おしいとそう感じてしまって
胸の中が温かい感情で
満たされて行くのを感じる
「突然の事で
驚かせてしまうかも知れませんが…」
そう彼が前置きをして来て
私が自分の膝の上に置いていた手に
自分の手を重ねて来て
その 季節は秋なのに
真夏の太陽の様な
そんな熱い視線を向けられてしまうと
少々 気恥ずかしくもなってしまいつつ
突然の事で 随分と畏まって
伝えたい事とは何なのだろうか?
「突然の事…と、仰るのは…
何の事でしょうか?」
「明日、…みくりさんに、俺の父上と
お出会いして頂きたいのだが?」
確かにそれは
突然の事だった
彼のお父様に 会う?
それも明日?
これまで 何度か
こちらから
彼のお父様にお出会いしたいと
お願いしていたのにも関わらず
それを断られ続けていたのに
ここに来て どうして急に…?