第22章 惣菜屋さんの筑前煮 前編 お相手:煉獄杏寿郎
あれと言う 槇寿郎の言葉に
杏寿郎には思い当たる節があった
今日の夕食で
父上の膳に乗っていた
あれの事だ
父上は
自室に籠られている事が多いし
食事も自室で
一人で摂られている状態だった
少量でも食事に
手を付けて居れば まだ良い方で
全く 食事を摂られない事も
多いと千寿郎が言っていた
俺の記憶に残る
父上の好物…は 筑前煮で
だが…一重に 筑前煮と言っても
筑前煮ならいいと言う訳でもなく
家で筑前煮を
用意して出しても
お召し上がられない事が多く
けれど
彼女の
みくりさんの店で買った
筑前煮なら
何故か理由は分からないが
その皿は 空になっていたから
しかし…筑前煮以外の
他の惣菜も試してはみたが
少しばかり手を付けるだけで
決まって皿が空になるのは
筑前煮の時だけだった
それも 他の店で買った筑前煮では
家で用意した物と同じ結果だったのだ
「はて?あれと仰いますと…?
何にあられますでしょうか?
俺には見当がつきませんが」
そう 分かってはいつつも
かまをかけるようにして尋ねる
「ふざけているのか?
あれは家で用意した物じゃないだろう?」
「ええ。父上の仰る通り、あれは家で
用意した物ではありませんが。
それがどうしましたか?」
「だったら、あれはどこで買って来た?」
「父上もお人が悪いように思えますが?
お分かりでしょうのに、お察しの通りです。
何故その様な事をお尋ねになられるのか
俺には皆目、見当が付きかねますが?」
そう返せば
目の前の槇寿郎の表情は
大きな変化はないが
纏っている
気の流れが確かに変わるのを感じて
いよいよ
俺は父上の問いに
ちゃんとした言葉で
答えない訳には行かなくなったので
渋々ながらに 答える事にした
「彼女の、店でですが?」
「…明後日」
そう小さな声で
槇寿郎が杏寿郎に対して言って来る