第84章 秋は巣ごもり 中編 お相手:煉獄杏寿郎 現代パロ
ぐいぐいと不満そうな顔をして
みくりが杏寿郎の上着を引っ張って来て
「ねぇ、杏寿郎。ちゅーは?」
「あのなぁ、キスを、ちゅーに言い換えた
からって、しないと言った物はしないからな?」
全く奥さんは俺の理性がどこまで
保てるのか試してるのかと
思ってしまいそうにもなるが
「ちぅ」
「しません」
「ちぇ~ッ」
つまらないと言いたげにぷぅと
下を向いたままで口を尖らせていて
拗ねてしまったのかと思ったら
「あっ、見て、杏寿郎!銀杏、銀杏落ちてる。
街路樹って匂いがするから、雌の木あんまり
植えないんだけど、雌の木もあったんだね」
ほらほらと地面の落ちている
銀杏の葉の間の銀杏のオレンジの
さくらんぼの様な実を指差して来て
「銀杏か、茶わん蒸しのあれか?欲しいのか?」
落ちている銀杏の実を杏寿郎が
手を伸ばして拾おうとするのを
物凄い勢いで止められてしまって
「ダメッ、銀杏の実は、素手で触っちゃ」
落ちていた木の枝を箸の様にして
みくりが銀杏の実を摘まんで見せて来て
「ダメなのか?どうしてだ?臭いからか?」
「銀杏の実には、ギンコール酸って言う
漆に似た成分が含まれてるから、素手で
銀杏の実に触ったら被れちゃうよ。
銀杏の実は、下処理に時間が掛かるけどね。
水に浸けて置く方法もあるけど、
庭があるし、土に埋めとくのも良いかもね?」
「食べたいのか?銀杏」
「私は、そこまで好きでもないけど。
煎り銀杏にでもする?確かね、銀杏と
塩こぶを炊き込みご飯にすると美味しいらしいよ?
って、おばあちゃんが言ってた。
おじいちゃんが銀杏好きだからさ
そうだなぁ、串に刺して、
七輪で焼いておつまみにしてたよ?」
杏寿郎がじっと落ちている銀杏を見ていて
「そんな食べ方もあるんだな、銀杏」
「え?銀杏、食べたいの?
杏寿郎が、食べたいって言うなら拾う?
って言いたいけど、今はビニール袋も
手袋も無いから、また拾いに来ようよ。
これだけ、落ちてても誰も拾ってないから
二田の人は興味ないんじゃないかな?」
そう言って銀杏の木に段ボールを
ビニールで保護した手書きの看板を
みくりがほらと指さして
”銀杏の実ご自由にお持ちください”と書かれていた
「拾っても良さそうだしね。臭いもするから
拾って貰える方が、ありがたいのかも」