第20章 惣菜屋さんと煉獄さん 中編 お相手:煉獄杏寿郎
トキ叔母さんには
ああは言った手前ではあるが
状況がこうも変わってしまうとは…
私が彼の求婚を受け入れて
彼が私を妻にしてくれると言った所で
その関係性は……
普通の夫婦等ではなくて
大凡の 幸せとは 程遠いのだろう
元より 身分違いも
不相応なのも理解していたのだから
だったら 何も……こちらには何も
不利益等無いのだから……だったら私は
その想いに身を焦がして
夢を見る前に…なかった事に
してしまえばいい……
元より……そうするべきなのだから
彼の未来を思うのであれば
たった一夜の
夢だけあれば それでいい
何も気に病む事もない
元に戻るだけだ
そう それでいい……
何も 望まなくていい
自分の身にはそれで十分だと
そう自分の身体を抱きしめて
そう自分に問いかける
「そうでしょう?
……そう思うでしょう?みくり……」
そう だって
私には望む事すらもおこがましい
彼との幸せな 未来なんて
望む事も 許されてなどいないのだから
その夜は床に就いても
なかなか眠る事が出来ずに
そのまま次の日になってしまった
24日盆の日は 店は休みだから
まだ 煉獄さんとの約束の時間には
早いので午前中はゆっくりと過ごす事にした
ああ でも 身体……一度起こさないと
軒下の朝顔に水やりしなくちゃ……
鉛の様に重い身体を起こして
みくりは外へ出た
今朝もまた いつもの朝と同じように
軒下の鉢の朝顔は白い大輪の花を
幾つも咲かせていた
「父さんの朝顔、…父さん、私……」
この白い朝顔は
父が生前 毎年植えては種を取って
ずっと育てていた 朝顔だった
「父さんの店を、守りたいの…
こんな方法しかないのは、心苦しいけど。
でもこの店には、沢山…思い出が……
詰まってるから、手放したくないの…」
父さんが亡くなった後も
その種を置いている場所は知っていたから
こうして今年も 白い花を咲かせている
「やっぱり、私は親不孝者……。
ごめんなさい。……父さん」
父さんの 白い朝顔が
私の方を見ていた
その花は 顔の様にも見えて
私を 責めている
何も言わずに 責めている
そんな気がした……