第20章 惣菜屋さんと煉獄さん 中編 お相手:煉獄杏寿郎
「もし、貴方が…物足りないと
思って感じてくれているのであるのなら。
俺からすれば、
喜ばしい限りではあるが……みくりさん」
スッと杏寿郎が伸ばした手の指先が
みくりの唇に触れて
その指先に軽く圧を込められる
「では、また。明日お迎えに上がります。
おやすみなさい、みくりさん。良い夢を……」
微笑みながらそう私に告げると
私の唇に押し当てていた
指先を自分の唇に当てて
ふっと笑って見せると
徐に手で私の髪を一房取ると
その髪の毛に口付けを落とす
そうしながら
視線をこちらに向けてきて
「…だが、もしも。貴方が
この夢の続きをご所望であるのなら…。
煉獄杏寿郎…は、馳せ参じましょう。
貴方の夢の中までも」
そう言われてしまって
ここまでだと……
そう念を押されてしまった
拍子抜け…そう
言葉にするなら 拍子抜けなのだ
だけど どうだろうか?
これは 拍子抜け…なの?
それとも 私は彼に… もっと
口付けられたかった……って事?
「しかしながら。
俺の望みが叶うのであれば……、
夢でない所で叶えたい。
許される事であれば、貴方と二人で、
夢を見たい所ではありますが…」
そう言って
煉獄さんが空を見上げる
さっき それを夢にしておきながら
夢を共に見たいと言われて
そうしたいと
望んでいると言われてしまって
彼の望む 私と見たい夢は
どこまでの物なのかと……
問うてしまいたくなりそうな
自分の言葉を飲み込んだ……
何も 言葉として
返せないままでいた
「もう月が、あの高さだ
…もう夜も遅い……。名残惜しいが、
……俺も仕事に戻らねば…なりません」
ああ そうか そうだった
見回りをしていると
彼は言っていたんだった
彼は 仕事をしている途中だったんだ
「す、すいません。
長らく…お引止め致しまして…。
おやすみなさいっ。また、明日……」
何度も深々とみくりが杏寿郎に頭を下げて
みくりが家へと入って行く
その後ろ姿を杏寿郎が見守る