第19章 惣菜屋さんと煉獄さん 前編 お相手:煉獄杏寿郎
「もう、トキ叔母さん…、冗談はよして?
どこの世界に26の石女を妻にする、
20の名家の嫡男が居るのよ?」
「いい男じゃないのさ。
変な頭の色しちゃあいるけど、
もう2年もずっとなんだろ?
なかなかいないよ?あんな一途な男も」
ドンッと調理台にみくりが
切りそろえて大きさの整った
野菜の入った入れ物を勢いよく置いて
「……一時の気の迷い……です。
そんなのは。若気の至り……でしょう?
きっと彼もその内、
現実が見えるはずよ?」
全く トキ叔母さんも 冗談がキツイわ……
私みたいな年増なんて
きっと後 数年もすれば
どんどん 衰えて行くと言うのに
きっと そうなってしまったら
若い女の方が…… 良くなるに決まってる
だって あの人がそうだった
私が 18の時に結婚した
私の 元夫……がそうだった
ふぅーっとみくりが長い溜息を漏らした
「はい、これ。あっち並べて来て」
トキから出来上がった惣菜の入った
バットを受け取ると
店の陳列ケースの中にそれを並べて行く
「ねぇ、前から気になってたんだけど。
どうして、一年中さつまいもの惣菜、
置くようになったんだい?」
「……ーーーかも知れないから」
そうトキに聞き取れない位の小さな声で
みくりがそう言って
トキからの返事が無かったので
聞き取れなかったんだろうと思ったのか
「彼が…、買いに来るかもしれないから…」
そうみくりが言い直すと
その言葉が届いたのか
「だったら、暖簾出す前に奥で
化粧……直して来な。
来るのかも知れないんだろ?」
「うん。そうさせて貰うね……」
と一旦店の奥へ引っ込んだと思ったら
また 慌てて戻って来て
「ト、トキ叔母さん!あのっ、別に、これは
夏の暑い中で、火使ってて化粧が
崩れたからだから!ああ、ホラ、客商売だし?
彼が来るかも知れないとかじゃなくて、
他のお客さんにも、みっともない顔を
見せられないからですからっ!…それだけっ!」