第19章 惣菜屋さんと煉獄さん 前編 お相手:煉獄杏寿郎
けれど 不思議な事に
彼の言葉の通り
彼の羽織はおろかどこも
濡れているような形跡はなく
確かに 水をかけてしまったと思ったのだが
みくりは
狐にでもつままれた気分だった
「でしたら、
……私の思い違いだったのでしょうね。
あ、店に…どうぞ。
すぐに準備をさせて頂きますので」
そう言って
みくりが店の戸を開くと
中に入る様にその男性に促した
その男性の脇を抜けて
みくりが店の奥手へと回る
私はここで
亡くなった父の跡を継いで
惣菜屋を営んでいる
そして この人は
週に1~2回ぐらい来てくれる
常連のお客さんの一人だった
「すいません。今日は
めぼしいのは…大体出てしまってるんで」
そうその男性客に声を掛けると
惣菜の並んだ棚をその客が
品定めをしながら見ていた
「そうでしたか、それは残念……。
ああ、でも。いつものはまだ、残っている様だ」
その様子をみくりは見ていたのだが
それにしても
毎回 この人を見る度に
思ってしまうのだが
彼は日本人なのだろうか?
前に港に外国の客船を見に行った時に見た
外国人のような そんな髪色をしていて
その色合いと逆立った髪は
獅子のたてがみの様な
そんな印象を受ける
それに着ている羽織も
かなり目立つような
燃え盛る炎を模した柄で
その瞳は まるでビー玉の様な
そんな そうこんな感じに
赤とオレンジが入っていて
夏の太陽の様な…そんな色してる
って あら?
すぐ目の前に
その赤とオレンジの瞳があって
その目が瞬きをするのが見えた
至近距離で目が合って
気が付かなかった
すぐ目の前に顔があっただなんて
顔が 近いっ…
みくりが慌てて視線を逸らせつつ
その男性客から距離を取る
「お、お決まりになられましたか?」
「今日は、これと、こっち、
それから、それも貰えるだろうか?」
男性客は惣菜の棚の中の
惣菜を指さしながらそう言った