第70章 秘密の個人授業 お相手:煉獄杏寿郎 現パロ高校生
私の目には 彼は…
生徒には見えてないし
今の私は彼に
教師の顔を向けてないから
「…無理な事を、言わない…でッ」
口で紡ぐ言葉は否定的な言葉だとしても
じわりじわりと 懐柔されていて
外側からゆっくりと 陥落させられてしまっていて
彼を自分から引き剥がそうと
その胸を自分の両手で押し返すが…
その腕に力が上手く入らないのは
怖くて震えてるからなんかじゃなくて
「俺じゃ…、頼りにはなりませんか?
貴方に頼られたい…、貴方の
助けになりたい、貴方を…支えたい。
みくり………、先生」
一瞬 下の名前を呼ばれたのかと
ドキッとしてしまって
ソワソワとして落ち着かない
呼ばれた…いと 思ってるの?
「そんな事を、お前に…して貰う
必要なんて…無いっ…っ、ぅ…
無い…って、言ってる…のにッ」
「そのまま…、もっと、見せて…?
今の、貴方の、その顔が…見たいから」
ポロっと堤防が決壊したかの様に
目から一筋 涙が零れて落ちて
スルッとまた指先で
その涙を拭われてしまう
でも もう 自分でも止める事が出来なくて
次から次に溢れて零れて 落ちて行く
でも この零れる落ちる
涙の意味は 恐怖の感情だけじゃなくて
この行き場のない感情が流させていて
「怖かった…?」
「…う…っ、…ふ…、……ぅん」
ちゃんとした言葉にも出来ずに
抱きしめられたままで
小さな子供にでもなったみたいに
そう問われて頷くしか出来なくて
ぽんぽんと頭に手を添えて
よしよしと撫でられてしまって
そんな風に誰かに頭を撫でられるなんて
もうそんな事は随分と久しい気がして
「……煉…、獄」
「杏寿郎…ですよ?」
そんな事を言われなくても
フルネームは知っている
「大丈夫ですよ、先生。
貴方は俺に…、弱みに
付け入られたとでも言えばいい」
頬を撫でていた
指先が残って居た みくりの目の
零れ落ちる前の涙を拭って
その涙で濡れた 親指の腹で
みくりの唇の
形と柔らかさを確かめる様にしてなぞる
ぴくッと小さく
自分の腕の中で その身体が跳ねるから
可愛らしい…と感じてしまった
「ぅう…っ、煉獄…、やっぱり
どうにも、お前は…ズル過ぎる気がする…ッ」
「ズルいんじゃない、したたかなだけです」