第17章 夏の空の落とし物 前編 お相手:竈門炭治郎
「分かってるの、
炭治郎君に酷いお願いをしてるって」
「でも、俺がそうする事で、
貴方も辛い思いをするのに?」
「でも、それでも……」
「やっぱり、俺なんかよりも、
みくりさんの方が優しいですよ?
けど、俺がそうしたら、みくりさん。
俺の事…、嫌いになったり、しませんか?」
炭治郎のその問いかけに
みくりが炭治郎の肩に手を置いて
ふるふると首を横に振った
嫌いになんて なれないよ
なるわけ ないよ
正直 彼女と自分の気持ちが
混同されてしまって
どっちの願いなのか
どっちの気持ちなのか
わからないけど
「なったりしないから、
…ならないから。だから……」
いつの間にか
自分の目から涙が零れていて
炭治郎がその涙を優しく拭ってくれて
「みくりさん、……泣かないで下さい」
炭治郎君の言いたい事は
分かってるつもり
後悔しか生み出さないって事は
理解してる つもり
それでも
自分の顔を炭治郎君の胸に
押し付けて彼から顔が見えない様にして
「お願い、炭治郎君……。
彼女の事、美空の事…を
抱いてあげて欲しい…の、君に」
炭治郎君は優しいから
私がこうして言葉にしてしまったら
きっと 断らないんだろう
だとしたら ズルいのは私だ
彼にそれを強要しようとしてるんだから
「ごめんね、炭治郎君。
無理なお願いしちゃって…」
「謝らないで下さい、謝られたら……俺」
誰の所為でもなくて
誰の為でもない
そんな行為に 何の意味があるのか
無意味な行為……なのだろうか?
俺には不幸しか 生み出さない気がして
だとしたら きっと これは
儀式のような物なのだろう
俺はそう 自分に言い聞かせて
今はどちらかわからない
自分の隣にいる
彼女の手を引いて
宿の入り口をくぐった