第17章 夏の空の落とし物 前編 お相手:竈門炭治郎
この二人はみくりさんに
乱暴をしようと目論んでいた訳で
2人を警察へ引き渡すと
そのまま 月明りの下を歩く
「あの、今は…美空は…?」
みくりが自分の胸の辺りを押さえて
「今は…、眠ってる…みたい」
きっと 幽霊に睡眠は必要ないから
意識的に殻に閉じこもって居ると
言う意味なのかも知れないけども
「みくりさん、俺、この近くに
宿を取ってるんです。
その、あのっ…、変な意味じゃなくって。
もう、夜も更けてますから」
「うん。ありがとう。炭治郎君。
お邪魔しても…いい?」
「も、勿論です。いいに決まってます!」
スッとみくりが炭治郎の
身体に自分の身体を寄せて来て
自分の身体に持たれさせる様にして
炭治郎がみくりの肩を引き寄せると
「俺、正直……
どうしたらいいのか、悩んでるんです」
「うん。私も、炭治郎君と同じ気持ち。
美空の事…で、でしょ?
炭治郎君は、やっぱり優しいね」
ギュッと炭治郎の浴衣をみくりが握って
「ねぇ、炭治郎君。お願いがあるの……、
こんな事を、
自分の恋人に頼みたくはないけど……」
その言葉から みくりさんが
俺に何を頼もうとしたのかは
大体 察しが付いてしまって
「そんな事をしても、俺も貴方も、
美空も誰も、幸せにならないと、
俺は思いますけど。それでも、ですか?」
そんな事ぐらいは 私にだって分かる
炭治郎君は私が頼もうとしてる事を
察して その上でこう聞いてるんだって
私も 彼も そして美空も
確かに誰も 幸せにはならない
それは彼の言葉の通りだ
無意味な行動なのかも知れない
けども 彼女はもう死んだ人間
これからの人生が有る訳じゃない
その記憶を塗り替えるのなら
別の記憶で上書きするのなら
それは きっと 今しかなくて
そう 今しか 出来ないから
彼女が 美空である内にじゃないと
だから 俺に みくりさんは
それを承知で 頼むんであって
きっとそれは みくりさん自身に取っても
苦渋の決断でしかなくて