第69章 なつのおはなし ※裏なし掌編 お相手:色々
「ふふ、お屋敷のお仕事は
可愛げでするものではありませんから」
可愛げのない減らず口を聞く程に
その中にある寂しさしか
同じ物を抱えている俺には見えて来ないのに
少しばかりに情に任せた
弱音らしい事のひとつでも漏らせばいい物を
今日も明日もこの女は
全く減らない減らず口を叩くのか
「その口は
減らすつもりも無いのか?みくり」
悪態をつく様に振るまいながら
甲斐甲斐しく俺の世話を焼くのか
「これが、私にあります。
どうにも板について居るので減らせません」
もう世話を焼けぬ 帰らぬ夫の代りに
埋まらぬ穴を埋める様にして
俺がそれを今まで望まなかった様に
お前もそれを望んでないのだと
その心の表れでしかないのに
何故か どうしてなのか
チリチリと胸の奥がくすぶる
火種にもならない様なくすぶりを
感じずに居られないのは 何故なのか?
シャク…と 槇寿郎が
手に持ったままになっていた
スイカを一口齧ると
そのスイカは甘かった
「甘い…」
「ええ、そうですね。
美味しいスイカですね」
「お前は、それでいいのか?みくり」
「もう、諦めましたので、それは。
私には必要のない物にございます。
それは、槇寿郎様も同じにありましょう?」
飛んで火にいる夏の虫
まだ 夏の虫は 幸せだと
そう私は思ってしまう
飛んで入れる 火があるのだから
望む事も願う事も捨ててしまった私には
その身を焦がす事も許されないのだろうから
飛んで火にいる夏の虫
「スイカ…、美味いな。
今度は、種は取らなくていい」
「槇寿郎…様?しかしスイカばかりでは
栄養が偏ってしまいますので…」
「後、多めに切っておけ、今日ぐらいでいい」
「あの、槇寿郎様、それは…ッ」
「何かを食って、美味いと感じたのは
随分と久しい様にある…、どうかしたのか?」
「……っ、そうに…、ありましたら
良うございました…ッ、良かった…」
そう漏らした本音が
素直過ぎる程の言葉にしかなくて
「お前は俺をどうしてくれるつもりだ?
そんな顔をしてそんな事を言って、
俺に、変な気でも起こさせたいのか?」
そう言って その大きな手が
みくりの頬に触れて来て