第69章 なつのおはなし ※裏なし掌編 お相手:色々
「どうして、そう私に、お尋ねに?」
こちらが問うたことには答えずに
みくりがそう返して来て
「聞くまでにも…、無いか。
俺に怖じる女なら、3月前のあの時に
屋敷に上がっては来ない…な」
「前々から思っておりましたが、
お酒、お控えになれませんか?
他にも方法はおありにはありませんか?」
ギロッと鋭い視線がこちらに向いていて
「もう、黙れですね、畏まりました」
槇寿郎に言われる前に
みくりがそう言うと
「何故、再婚は断った?」
そうこちらが問いかけているのに
しゃく…と新しく一口
自分の手のスイカをみくりが頬張ると
「では、お聞き致しますが。
槇寿郎様は何故後妻を、
お娶りになられないのですか?」
「俺には、息子がもう居る」
「でしたら、余計にお母上は
必要でしょうに。もう、杏寿郎様には
必要にはありませんでしょうが…」
「だが、その年齢の頃に亡くした」
じっとこちらをみくりが見つめていて
すっと手をこちらに伸ばして来てので
その行動が読めずに身体を引いてしまって居て
「スイカ、もうひとつ頂きたくあります」
「お前っ、人の話を聞いていたのか?」
「ええ。聞いておりますよ?
でも、スイカを食べ終わってしまったので。
槇寿郎様は、失った穴を、別の
何かでお埋めにならなかっただけにあります。
埋める事すらも…、惜しまれた結果なのでは?」
「お前に、何が…解る」
シャクとみくりが
新しいスイカに一口齧り付くと
「私にはそれが何かも解りませんが、
私には、スイカが美味しい事は分かります」
「全く、減らず口しか叩かん女だな。お前は」
「それもこれも全て、
失った事を惜しんで、始めるのを
惜しんだ結果にしか過ぎません」
みくりの言葉にふぅ…と
槇寿郎がため息を付いて
後頭部に手を当てた
見てしまったからだ
その横顔に
頬を濡らして落ちる
一筋の涙が光るのを
「同じ穴の貉…か」
「槇寿郎様と同じ穴の
貉が、震えておりますよ?」
「減らず口を…、お前は、少しは減らせ。
口が減れば、もう少し…、あってない様な
可愛げのひとつも出るだろう?」
同じ穴の貉なのは きっと
お互いに理解は出来ている
目の前のこの人の虚勢と
私の減らず口は同じだから