第69章 なつのおはなし ※裏なし掌編 お相手:色々
「そうでありましたか、それは失礼を。
ご近所の方に頂きました、
とても美味しいスイカだそうですよ。
スイカは身体を冷やしますから」
つまりは暑い今日にはうってつけだと
そう言いたい様だった
お盆には塩が添えられていて
スイカに掛けろと言う意味だろうが
「暑い時期ですので、塩分も…
一緒にお召し下さいませ。では
私はこれで、風呂の支度に参りますので」
「…待て」
「はい?如何なさいましたか?」
「俺一人には多すぎる」
流石に俺も一人で4分の1も食べれない
それに切ってしまって居るなら
そのまま置いておくのも難しいだろうから
「手伝え」
「スイカを食べる、お仕事にありますか?」
「黙って食え」
口を開けば減らず口しか言わないので
黙れと言われてしまって
槇寿郎の言葉にみくりが首を縦に振ると
槇寿郎が腰を降ろしている縁側の
少し離れた位置に腰を降ろして
食べやすく切ったスイカの
一欠けらを自分の手に取ると
シャク…とその歯ざわりを楽しむ様にして
スイカを一齧りする
こっちに槇寿郎の視線が向いているのに気付いて
視線を上げると
「………」
「………」
喋るなと言われたので
無言のまま槇寿郎を見つめていると
「素直なのか、素直じゃないのか
良く分からないヤツだなお前は」
「黙れと私に仰ったのは、槇寿郎様にあります」
「なら、話せ」
黙れと言われて黙っていたのに
今度は話せと言われてしまって
「槇寿郎様は…、
あまり素直ではあられないかと」
ギロッと睨むような視線を向けられて
「お前は、もう黙れ」
「じゃあ、黙ります」
シャク…無言のままでお互いに
自分の手にあるスイカを頬張る
「美味い…な」
「………」
こっちが返事を返さないのが不満らしく
その顔を歪ませるので
ちょっと素直じゃない上に
面倒くさい御仁だと感じずに居られないのだが
「返事位しろ」
「槇寿郎様は、我が儘にあります。
私に黙れや喋れやどうしたらいいのか
理解に苦しみます」
「お前は気が強すぎる。
おまけに、偏屈だしな」
槇寿郎の言葉に
みくりがプイっと顔を逸らせると
「どうせ、私は気が強いです。
それは昔からにあります。私の気が
強くても槇寿郎様にはご迷惑にはなりませんので」
「俺が怖くないのか?」