第69章 なつのおはなし ※裏なし掌編 お相手:色々
今日もこの屋敷の主である
槇寿郎様は殆ど夕餉に手を付けておられず
部屋に膳を下げに行くと
そのお姿は部屋にはなく
風を屋敷に通す為に開け放たれた
縁側にその後ろ姿を見つけた
もう 日が落ちるので
網戸にしないと虫が中に入ってしまう
風上からふわりと
風に乗って槇寿郎の嗅ぎ憶えのある
香りが漂って来る
その香りの方に槇寿郎が目を向けると
そこには煙の上る蚊取り線香が置かれていて
また あの女か…要らん事ばかりする
酒を煽りながら 中庭に目を向けると
庭に打ち水をしているその女の姿があった
お館様からの直々の申し出があって
ここで預かっている女だ
鬼殺隊士の妻だった様だが
任務で命を落としたので
再婚をと勧めた様だが
いい歳なのでと断ったらしく
その隊士の退職金として
生活に困らない支援をと申し出た所に
あの女はそれの受け取りを拒否したらしく
最低限度の生活の保障があれば十分と
そう使いの者に申し出たと言う事で
何が俺にも分からんが
杏寿郎がそれならと
うちの屋敷に女手がある方が
千寿郎の助けになるだろうと
あれやこれやと言葉多くに俺に言いに来たが
俺は杏寿郎の言葉を言葉半分にしか
聞いて居なかったので
その女…みくりが屋敷に来た時に
盛大に追い出してしまったのだが
俺のその様子に構う事もなく
俺の横を素通りして
お世話になりますと言って屋敷に上がった上に
それから3月になるが
そのまま 何食わぬ顔で屋敷に居る
「私をここから追い出したいのでしたら、
槇寿郎様が屋敷のお勤めをなさって下さい。
千寿郎様にご負担になるばかりにあります」
そう俺に恐れる事もなく
言ってのけた女だ
杏寿郎を少し恨んだ
得体が知れない女…と言うだけでなく
俺に怖じる事もない女だ
要するに変わり者なのだ とんでもない程に
コトンと音がしたと思ったら
もうその姿は無い
元々はその女も鬼殺隊の隊士だったとは聞いた
雷の呼吸を使う隊士で
甲にまで昇りつめていたとも
足を負傷して前線は退いたが
時折雷の呼吸をこうして使っては
余計な事ばかりする
そこに置かれていたのは
良く冷えたスイカだった
「種位は…、自分で取れる」
そう開け放たれた間続きの部屋の
襖の裏に槇寿郎が声を掛けた