第17章 夏の空の落とし物 前編 お相手:竈門炭治郎
炭治郎は一瞬 二人の関係を
怪しんでしまったりしたのだが
みくりさんからも
あの陵厳さんって人からも
嘘の匂いもしないし
陵厳さんと言う人からは
荒っぽさがあるが
気のいい人な匂いがするから
安心しても良さそうだ
何をしているのかと思って
その姿を見てると陵厳さんは
部屋の四隅とその間に
ぐるっと部屋を取り囲むようにして
草を干して作った
お香の様な物を
香炉に入れて並べていた
部屋の中央には
お盆の様な水の入った物が置かれて
その中央に塩が盛ってある
なんだか良く分からないが
何かが始まるんだと言うのは
何も説明らしい説明を
受けていない炭治郎にも
空気で伝わって来て
作務衣姿だった陵厳が
袈裟に着替えると
その手には大きな玉で出来た
長い数珠があり
その数珠をジャリジャリと
音を立てて擦り合わせる
不安な気持ちを掻き立てられてしまって
隣に正座しているみくりの方を見ると
しぃーっとするような仕草をして
「大丈夫……、
陵厳さんに任せといたらいいよ」
と言ってにっこりと微笑んでくれた
その笑顔がとても可愛らしくて
眩しくて
やっぱりみくりさんは可愛いなぁっと
気持ちが和んだ頃に
ードクンー
と自分の心臓が意識に
反して大きく跳ねたのを感じて
思わず自分の左の胸を手で押さえた
陵厳さんが俺の背中を
その数珠で撫でると
ポタポタと冷汗が出て来て
床へと落ちた
身体が一人でにカタカタと震えた
恐怖の感情が自分を支配するのを感じた
でも俺の中にある この恐怖は
俺の感情じゃない
だったら この感情は 誰の?
怖い 怖い 怖い
嫌だ 嫌だ
苦しい
淋しい
悲しい…
ードクンー
と更に大きく心臓が脈打って
耳元で低い声で陵厳が囁いて来るのが
遠ざかりつつある意識の中で聞こえて
「その坊主から、出て行きな。
アンタはここに居ていい存在じゃない」