第58章 今年の彼の誕生日は…後編 お相手:煉獄杏寿郎 現パロ
みくりの頬に触れた
杏寿郎の手を 彼女の涙が濡らして行く
「みくり、泣かないでくれ…」
俺に対してなのか
俺じゃない誰かに対してなのか
どちらに対してなのかも 知れぬ
「…っう、…んく…ッ」
涙を流し続ける 彼女に
それは… 彼女と表すにも
危うい程に 不確かな物でしか無くて
だが…ただ ただに
その目から零れる涙を止めたくて
「俺は、ちゃんと、ここに居る…。
だから、確かめてくれ。
みくり、君の全てで…」
「杏寿郎っ、…杏寿郎…さんッ」
みくりとみくりじゃない方の
声が…口調が…重なって聞こえる
ギュッと自分の存在を
確かめさせる様にして強く
その身体を引き寄せて抱きしめる
「俺は、ここに居る。
どこにも、行かない、だから
安心してくれ…。みくり」
ギュウウっとみくりの方から
強く身体を抱きしめ返して来て
「杏寿郎」
そうみくりが杏寿郎を呼んで来て
いつものみくりに戻ったのだと
酷く安心してしまった
怖くなってしまったんだ
一瞬 みくりと重なっていた
もう一人のみくりの存在を
今までで一番強く 濃く感じたからだ
彼女の顔によく似たその
面影を 見てしまったかの様に
いや… 違うな
俺が見てたんじゃない
それを見ていたのは 恐らくに
俺じゃない方の俺の記憶でしかなくて
「みくり」
そのまま 抱きしめている腕に
自然と力が入っていた様で
「杏寿郎ッ、苦しい!
放してってばっ、潰れるッ!」
自分の腕の中から
いつも通りに憎まれ口が返って来て
ギュウウっと更に強く抱きしめてしまって
「みくり、ああ、良かった。
今のは、いつもの君だな」
「私はいつも、私だってばっ」
変な事を言うなと言いたげに
不満を漏らして来るので
よしよしとみくりの頭を
杏寿郎がナデナデをして来て
「みくり、キスしてもいいか?」
「えっ、さっきもずっとしてたのに?
どうして、それを聞くの?杏寿郎」
さっきの居酒屋で
食事もそこそににして
散々キスならしたでしょと
言いたげに不満を述べられてしまって
だが 堪らなく
聞きたいと思ってしまっていたんだ