第52章 春と言えば…? 中編 お相手:煉獄杏寿郎 現パロ
「じゃあ、西井君は大丈夫なの?
あの人、あんなんだけど、家は
大地主だし、お金持ちのお坊ちゃんで。
大学は東大だよ?で、公務員なのに?」
そうみくりが西井について
早口に話をし始めて
「要するに、彼はハイスペックなのか?」
興味なさそうに杏寿郎が返して来て
「いつも、学年1位だったし。
頭、滅茶苦茶良いんだよ?
田舎の公務員は、
勝ち組の中の勝ち組だよ?」
「でも、彼には牙がないからな。
遠慮もないが、野心もないし、
闘争心の欠片もないしな。
わざわざ、俺が敵対意識を燃やす
存在でもないだろう?あの彼は。
それに、今まで君はあの彼を
一度でも異性として意識した事があったか?」
「あるわけないでしょ!」
杏寿郎がこちらを指差して
呆れた様な顔をすると
「ホラ、見ろ。そう言う事だ。
この話はこれでお終いだ。
その西井君とやらから貰ったこれを
空に飛ばすんだろう?みくり」
「ねぇ、杏寿郎。どうして、
これ…用意してくれたのかな?
アイツ、要らん事しぃだし、
こんな風に気を遣うタイプじゃないのに」
「分からないのか?
薄々気付いていて、俺からの
見解が聞きたいのか?君は」
杏寿郎の言葉にみくりが
首を左右に振った
それから 顔を上げると
そのまま みくりが
ある方向を見たままで
固まってしまって居て
「みくり?どうかしたのか…?」
その視線の先を杏寿郎が見ると
地元の物を売っているブースの一つの前で
ビールのケースを抱えて
ふらついていた若い女性を
そのブースから慌てて
男性が出て行って
そのふらつく身体を支えていて
『馬鹿ッ、お前、
酒持つなって言ってるだろ!』
『ごめんっ、健太郎。でも
酒蔵の奥さんが、お酒持たないとか』
女性の方は妊娠中の様で
そのお腹も遠目からでも目立つぐらいで
『ああっ、もう。俺が運ぶって
言ってるだろーが、お前はその椅子
座ってろ、鍵、こっち寄こせ』
「そっか…、
結婚してたんだ。健太郎」
そう自分に言い聞かせる様に
みくりが言って
「彼が、渡辺君か…」
「うん。そう。でも…、
良かった…、うん、良かった…」
ポロっと目から自然に涙が零れて来て
次から次に みくりの頬を濡らす
彼女の6年分の後悔…なのかも知れないが