第50章 ハルイロ お相手:煉獄先生 ※裏なし
杏寿郎さんに
会いたいって
今… 杏寿郎さんと
会わなくっちゃって
そう思ってしまっていて
その通話をしたままで
バタバタとみくりが
小走りになって玄関へと向かった
「あっ、みくりちゃん、
どこへ行くの?今からお出かけ?」
「ちょっと、出掛けて来るッ」
「あら?あらら?もしかして…、
もしかしてなのかしら?
いってらっしゃーい。みくりちゃん。
遅くなってもいいのよ~」
「変な事っ、言わないでよ!
お母さんったらっ。夕飯までには、
戻るからっ。行って来ます」
通話が繋がってるままなので
杏寿郎の耳にもその会話は
まるっきりに筒抜けになって居るのだが
森林公園に着くと
みくりが車から降りて
あの時に咲いていた
アーモンドの木の方へと向かう
もう 花の時期は過ぎているので
そこに花が残って居る訳はなくて
ザアッと 強い春の風が吹いて
乱れた髪をみくりが押さえた
その強風に煽られて
ヒラヒラと桜吹雪が舞い上がる
ソメイヨシノは終わってしまったから
八重咲の桜の花びらが
風が止んで
ひらひら ひらひらと
ゆっくりと 舞い降りて来ると
その 花びらの舞う先に
杏寿郎の姿が見えて
その顔と目が合うと
穏やかな笑顔に変わるのが見えて
「やはり、君は…花びらに
好かれる人の様だ。失礼させて貰っても?」
「え。あ、…すいませ…ん」
スッと杏寿郎がみくりの
髪に引っかかっていた
八重桜の花びらに手を伸ばして来て
その花びらを 除けると
自分のその手にある
桜の花びらをしげしげと眺めていて
「君の許しも得ずに、
君の髪に触れるなんて…な。
俺はこの、花びらに
嫉妬してしまいそうでもある」
「そんな事で、嫉妬されてたら
花びらが困っちゃいますよ」
「なら…、許可を頂きたいのだが?」
許可…?何のだろ?
「許可…、ですか?」
「みくりさん。
君の…その髪に触れても?」
風に舞う 花びらが
淡く その彼女の黒い髪を
ハルイロに彩るのなら
「どうにも…、貴方はズルい人の様だ」
「えぇっ、私は何も…してませんよ?」
ふっとその顔が笑顔になって
「ほら。やっぱり、無自覚だ。
俺に、あんな殺し文句を言ったのは。
誰でもない…貴方なのに」