第12章 銀の流れる川 前編 お相手:竈門炭治郎
きっと私も この異形を……
孕まされるのか……
「おお゛おおおっ、
うおおぉお゛おおおおっ!!」
自分の子供が死んで悲しいのか
顔のない異形が大声を上げる
その声はまるで咆哮の様だ
それにしても 面なしとは良く言ったものだ
顔と呼ばれる場所はツルツルで何もない
この鬼はどうやって食事をするのだろう?
口が無ければ 人を食らえないのに
そのまま その面なしは
抱きしめていた肉塊を抱きつぶしてしまって
その肉片が
足元の溝に流れ込んだ時に
パァアアアアッっと水が銀色に光って
水が光ってる
これが 銀色に輝く川だったの?
そしてその肉塊の中に
キラキラと輝く銀の塊が見えた
鬼の血気術なんだろうけど……
銀が作れるのか
でも作り方が 酷く悪趣味だ
さっきのこの鬼の様子からして
これをこの鬼は何度も繰り返していて
それも20年前から
子供を望んでは
銀を作り出して
そして その銀は この集落を潤して来た
そして 面なしは
今度は子供に腹を裂かれて死んだ
女の体を抱きしめた
鬼にもそんな一種の
相手を思うような感情があるのかと
思ったのも束の間だった…
いや…… 違う
抱きしめてるんじゃない
ゴリゴリとグチャニチャと
咀嚼している音がする
それもその咀嚼音が
その鬼の胸の辺りから聞こえる
顔と呼ばれる部分に顔がないだけで
あるんだ この鬼には
顔が…… 胸の辺りに
「まだ…よめご、
しんじ…、まっだ。おでの…、よめご…」
それは そうだろう
生まれ方があれなのなら
死んでしまうのは当然だ
「ひゃっ、ひゃっひゃひゃひゃ」
さっきまでのたどたどしい喋り方とは違う
軽快な笑い声が聞こえて来た
「相変わらず、おんしはバカじゃのう、
嫁ごなら新しいのが増えたじゃないか」
笑い方だけじゃない
胸にある口は
随分と流暢に話が出来るようだった
「あだだしい、……よめご、わすででた」
ああ もう そのまま
私の事 忘れてて 欲しかったなぁ
ジリジリとこちらに
近づいて来るのがわかる
逃げたいけど
私はこの柱と仲良くしてるから
逃げられないのだ
そして
目の前に面なしが来て 気が付いた
胸にある 顔は二つだった