第12章 銀の流れる川 前編 お相手:竈門炭治郎
「見ちゃダメ…」
私の隣に居た女が
私に声を掛けて来た
だが 目の前にある異様な光景から
目を逸らせたいとも思うが…逸らせない
産まれるのが
鬼の子なのか?
人の子なのか……?
それとも それとも成らない物なのか…?
半人半鬼の存在も聞いた事がない
鬼がこれほど長く はびこっていて
仮に 戯れに人の女を犯したとして
鬼の子を宿したとも
産んだとも聞いた事がない
だとすればだ
あれは…何なのか 興味を引かれる
それにしても 変な匂いがする
あの集落で嗅いだ
死臭にも似た 腐敗した匂い
それが あの産気づいている
女からしているのにみくりは気が付いた
周りにいる女達は
これから何が起こるのか知っているからか
何も言わずに堪えるようにきつく
瞼を閉じている
メリメリと肉を裂くような音がして
女の腹がうねうねと蠢いて波打つ
ボコボコと出っ張っては
引っ込んでその動きすら 異様だ
見ちゃダメとさっき言われたのが
何故だか 分かった
これは見るな!もだが
耳も塞ぎたい気分だ
でも 腕を拘束されているから
それは出来ないっ…
きっと……この異形は
普通の赤子の様な 生まれ方をしない
「ぐ、う、が、っぎぐぅ、
ぎやぁあああああああぁっ!!」
ドボドボと裂けた女の腹から
血が滝のごとく したたり落ちて
そしてその血が……足元を流れる
小さな溝のような場所に流れて行く
ズルッ ズルッ…
何かが這っている音がする
さっきあの女の腹を裂いて出て来たそれは
大凡
人の子でもなければ
ましてや
鬼の子ですらも ない
昔 聞いた事がある
蛭子……
それは 赤子とは呼べざる
只の肉の塊だった
言うならば
出来損ない の成れの果て…だった
「オ…デの、…オデの子っ……」
面なしがその肉の塊に手を伸ばすと
自分の子供を抱きしめるようにそっと抱いたが
まもなくそれは 動きを止めた
事切れた のだ
そうだろう 目も鼻も口もない
きっと母親の胎内でしか生きられない
息をする場所がないのだ
生まれ落ちた瞬間に死しかない
ゴクリとみくりが固唾を飲んだ