第16章 釘
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『侑くーん!』
海から出てきて、サーフボード腕に抱えてこっち向かって歩いてくる。
まだ遠いとこやから大きい声で俺の名前よんで、腕大きく振って。
好きな子が、まっすぐ俺のところに帰ってきてくれるってほんま嬉しいな。
ほんで、むちゃくちゃかわいい…
『お待たせしました。 はぁー、満たされた』
「…ほんまに?」
確かにさっきの、
なんやろ、
焦らされて焦らされて挿れて欲しい…ってなっとるような
あの切羽詰まったような色気は静かになっとるけど、
一つ目の欲が満たされたのは確かやけど、確実にもっと欲しいってなっとるような、
そんな色気はまだまだぷんぷん匂ってくる。
『…んー?どういう意味ー?』
そんな色気出しとることなんか本人は無自覚なんやろな、
とすんっと俺の横に座って、下から覗き込むように聞いてくる。
…はぁ、襲いたい。
「なんでもないわ」
『…ふふ 侑くんにそっけなくされるの、すき』
「は? え、今そっけなかった? ごめん、そんなつもりやないんやけど…
俺も俺でいろいろ葛藤してんねん、心の中で、いろいろせめぎ合ってんねん。
やからちょっと、そういう風に聞こえる感じで喋ってまうこともあるんかもしれん。
でもほんまにな……」
ベラベラベラベラ、何のためか知らん、弁解みたいな言葉が出てきて。
ある程度まで喋ったとこで穂波ちゃんの人差し指が俺の唇に重なる。
穂波ちゃんは俺の方に身を乗り出すように体を捻って、
口に添えとんのと反対の手は俺の手の甲の上に乗せて。
『…大丈夫。悲しいなんて言ってないし、侑くんが優しくて人想いなの知ってる』
「………」
唇に添えられとった指が離れて、手のひらが顔に添えられる。
親指がさわさわと俺の頬をなぞるように行ったり来たりする。
その視線は、明らかに、俺の唇にあって。
やばい、食われてまう。
飲まれてまう。
って思うと興奮してぞわっとした。
穂波ちゃんの唇はやらかく開いとる。
濡れたおくれ毛が、ぴとっと肌にくっついとって。
…エロいなぁ、全部がエロい。