第16章 釘
ー侑sideー
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大きい布を一枚敷いて、
そこに水筒とさっき買った果物が入っとるシリコンのケースを置いて。
穂波ちゃんは海に行ってまった。
『ごめん、すごくいい波来てるから、先ちょっと行ってきてもいい?
あとで、あとで一緒に過ごそうね?』
そう言って、たたたたー、っと。
俺のこと気遣いながらも、俺のことなんて気にしてられへんいうか。
なんやろな、貪欲な方の穂波ちゃんを見せられとる感じ。
無頓着で臨機応変で、合わせるわけでもなく人に合わせとるようなとこが普段はあるのに。
待たれへん、もっともっと、ちょうだい、 みたいなやつがすごい。
さっきの店で会った時から思ってたけどどちゃくそエロい。
今までもエロかったけど、なんやろ、この違い。
俺はいっぺん一人で肩まで浸かって、
少しぷかぷかしたあとでここに座って、
小さく見える穂波ちゃんを目で追ったり見失ったりしながら
頭に浮かんでくるいろんなことに思いを馳せたりしとる。
んでもう、あの店ん時から今までの小一時間くらいの間に、
ちょいちょい思ってんのが、
あれ、俺今日到着したんやんな?
っての。
ほんまわけわからんほどに、普通にここにおる感覚になっとって。
旅行やー!いう全部新鮮で特別なんも好きやけど、
なんやろ、この感じ、初めてで、それからむっちゃええなって思てる。
穂波ちゃんがおるからなんやろな、いうことだけは確かやろな、とか。
研磨くん、穂波ちゃん今いろいろ詰め込んどるって言っとったな。
そのあと、気をつけて、言うから邪魔すんなよって意味なんかなって思ってたんやけど。
もしかして、詰め込んで、ハイみたいになって
どエロくなっとるこの状況のこと言ってたんか?
とか、まだ時差ボケの抜け切らんこっちの夕方に
ビーチでぼんやりと考えたりしとる。
こんなゆっくりすんの、いつぶりやろか…
なんかオフって感じする。