第16章 釘
ー穂波sideー
ショートパンツをすっと脱いで、よし、海に行こうって思った。
配慮に欠けていたのかもしれない。
でも海の家とかがある日本のそういうとこでもない。
一緒に海に行こうってなってる人と、
すぐそこに海がある場所で、
上に着ていたものを脱いでさっと水着姿になるって、いけないこと…ではない気がする。
でも、今。
「…なぁ、誘ってんの?」
わたしは車に押し付けられ、
顎をぐいっとされて、凄まれている。
…あばあばする侑くんはかわいいけど、
凄むと本当に迫力がすごい。
色気も、ものすごい。
「俺のことからかうんも、全部前戯なん?
煽って、襲わせようとしてるん?なんなん?」
『…ねぇ、侑くん』
「…なに?」
怒らせちゃったのかもしれない、
配慮が足りなかったのかもしれない、
けどもうわたし……
『わたし、我慢できないの、もう。早くして?』
「…は? …はぁ? してええの? …え、あ、してって、何を?」
『早く、離して。 海入りたいの』
「………」
『………』
「…そ、そやな、そらそーや、海行こ!」
『侑くんはそのまま?インナー履いたまま入る感じ?』
「ぉん」
『それならもう行こ!』
禁断症状と呼ぶには、ちょっと違う。
海には毎日のように入っている。
でも、でも、学業に割く時間や熱量を大きくするほど、
わたしの身体は反動のように海を、欲しがる。
それはもう、病気と言っても良いくらいに。
欲しくて欲しくてたまらなくなるのだ。
ゴーサインが出たのなら、躊躇してる暇などない。
侑くんの手をとって、
右手にサーフボードとネクタリンを抱えて、走り出す。