第3章 くじら
ー穂波sideー
京治くんは謝らなくていいという。
蛍くんにも言われたな、と思い出す。
謝られたら、謝らなきゃいけなくなる。
僕、謝りたくない。ってそんな感じのこと。
……でもなんか京治くんとのは、完全にわたしが誘ったし、何だろな。
やっぱ想ってくれてる気持ちを知った以上、うやむやにせずに、
一度、謝るべきだってなかなか曲げれなくて。
結構、話した。
堂々巡りな話に京治くんは根気よく付き合ってくれた。
ときおり、あはは、と笑いをこぼしながら、
ときおり、ドキッとするほど優しい目でわたしを見つめながら。
そうして気がつけば話は脱線して、
2人でくすくす笑ったりしながら、調理室の鍵も返し終えてってなって。
「…俺が欲しいのはごめんじゃなくて、この時間」
『…?』
「今までのように、過ごせることが俺は嬉しいよ。
これは他でもない穂波ちゃんのおかげだ。その人柄があるから」
『………』
「あと、そうだな、孤爪のおかげでもあるか」
『………』
「…ははっ、思い出したらやっぱり納得いかないみたいな顔してるけど」
…そんなにわたし、表情に出るかな。
「じゃあそれでもごめん、って思って言いたくなるのなら…」
『………』
「その代わりにこんど、一緒に書店にいこう」
『へ?』
「丸の内の、あの書店へ、また行かない?
また行きたいな、って俺は思ってた」
『え、あ…うん、行く』
「うん、じゃあそういうことでこの件は終わりで。
そろそろ集合だね、っていうか待たせてるくらいかも」
京治くんはそう言ってわたしの手を取った。
どきっとした。
昨日、自分から繋いだ時はそんなふうに思わなかったのに。
こんな風に繋がれるとどきっとする。
そうして京治くんに手を引かれながら、
みんなが集合してるであろう体育館へと小走りで向かう。