第3章 くじら
『あのね、京治くん』
「うん」
『昨日ね、京治くんが話してくれたこと、本当に嬉しかった。
今も、嘘みたい。嬉しい。ありがとう』
「…いやそんな」
『それでね、やっぱりね、でもそれならよかったじゃないなって思ったの。
昨日は、他に大切に想ってる人がいるのにどうしよう…ってそれで頭いっぱいだったから、
気持ちを伝えてもらって、あぁそっかぁ…ってどこか変に安堵しちゃったんだけど』
「……」
『いやだからこそ、でしょって思ったの』
「……」
『京治くん、ごめ……』
「……………謝らないで」
『ん?』
「謝らないで、欲しいな」
『え、でも…』
「昨日、孤爪に確認した。今まで通りかそれ以上の感覚で、穂波ちゃんに接するって」
『…?』
「それで、了承を得た」
『…?』
「俺は、穂波ちゃんのことが好きだったし今も好きだし、
でも知っての通り、好きになった時にはもう彼氏がいて、そんな穂波ちゃんが好きだったし、今も好きだ」
『……』
俺、好き好き言いすぎているんじゃないか…?
「だから、そうだな…昨日のキスの続きは期待してない。
かといって、昨日のキスがなんでもなかったとは言えない。
正直、すごく気持ちよかった、昨日のキスは。
忘れることなんてできないし、そう努めるつもりもない」
『……』
「とにかく、謝られるような感情を俺は抱いていないよ。
あれはお互い様だったし、その無意識でしてしまった事故のような動機に関しての謝罪は、
昨日お互いにもうした、と思ってる。だから、もうごめんはいらないから」
『…でも』
「気持ちに応えられないのなんてわかってる。次がないのも。
でも、次がないっていうのは昨日みたいな状況が、なだけだから」
『…?』
「とにかく、そうだな、俺の中では結果的に良い出来事として消化されたから」
『……』
「だから、まぁ、そういうことでいいかな?」
『…ん、わか…った』
「あはは、まだ納得してないね、いいよ、とことん話そう」
『……』
納得してないことにとりあえずで頷くことができないみたいだ。
真っ直ぐで、かわいらしい一面をまた一つ知った。
いくらでも話そう、納得するまで。
2人の正解を見つけよう。
恋人でもないのに、そう思った。