第3章 くじら
ー赤葦sideー
『京治くん、ここいいですか?』
午前練の後主将で集まって話があったのだけど
ちょっと長引いて遅れて昼食。
主将の5人で食べていると
トレーを持った穂波ちゃんが来た。
孤爪は俺の隣にいて、端の席なので俺に聞いてきたんだろう。
「あぁ、もちろんいいけど、ここ開けるよ」
トレーを横にスライドして腰を浮かせる。
『えっ、でもいいのかな?』
「別にもう話は終わってるから、大丈夫だよ」
『そっか、ありがとう …あ、でも』
「…赤葦の肘と穂波の肘ぶつかるんじゃない?」
あぁ、そっか。
穂波ちゃんは左利きか。
「…俺は別にいいよ。少し椅子調整すればいいだけだし。
穂波ちゃんがいやじゃなければ、別にいいかなって思うけど」
『…あ、うん?じゃあ、そうするね、せっかく動いてもらったし』
「うん、どうぞ」
穂波ちゃんは向かいに座る残りの三校の主将にペコリと会釈し
俺と孤爪の間に座る。
穂波ちゃんの向かいは烏野の縁ノ下だ。
トマトとニンニクの炊き込みご飯、豚肉のチーズピカタ、3色パプリカのマリネ、
茄子とササミの和え物、ポテトサラダとレタス、コンソメスープ、オレンジ。
「穂波ちゃん、今日も美味しい」
『へっ… あ、うん… 力くんありがとう』
「いえ、こちらこそありがとう」
美味しいの言葉に、穂波ちゃんは本当にいつも、かわいらしい顔をする。
左隣でその横顔を見るのは新鮮で、つい手が止まってしまった。
そして穂波ちゃんを挟んで孤爪の視線の先をぼんやりと感じる。
孤爪もきっと同じようなことを、
何度も何度も感じてるのだろうなと思い、ふっと現実に戻るというか。
箸をすすめる。
・
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『…ぷっ 笑』
「…くっ …あはは……」
だめだおかしい。
どうやってもどうやっても、肘が当たるのだ。
いろんな形で。
最初は、ごめんね、などと言い合っていたのだが、
次第におかしさが込み上げ、しばらくはお互いに笑いを噛み殺してやり過ごした。
でもそれも長くは続かず、ついに2人で吹き出してしまった。