第14章 蜂蜜
そしてその甘さに何度も吸い寄せられて、
身も心もとろけたり、ほわほわになったり、なのだけど。
今もまた、わたしは吸い寄せられてしまう、と思った。
けど研磨くんの方から近づいてきて、それから自然と唇が重なった。
自然とっていうのは、顎のくいっとか、頬に手を添えて、とかもなく。
片手は繋いだまま、もう片方の手はお互いぷらんと垂らしたまま、
ちょうど良い角度にちょうどいい速度で顔を傾け、当たり前のように唇同士が触れるような。
そういう感じ。
それ以上をすることなく、ただ触れてるその感触をしばし味わって。
瞑っていた目をゆっくり開くと、研磨くんの額がこつんとおでこにあたる。
おでこが、眉間が、じんじんと震えるように熱くなる。
少しこそばゆいくらいに。
「だめだ、先走る」
『………』
「お願い、おれを黙らせて」
研磨くんを黙らせよう、なんて誰がしようとしたことがあるのだろう?
って、そのときわたしは能天気にそんなことを思った。
そのくらい、いきなりのことだったし、
そのくらい、謎だった。
「………」
『………』
そんなことを考えてみたのも束の間、
すぐそこで感じる研磨くんの息遣いを肌で感じていると、
やっぱり身体が勝手に、自然に、研磨くんを求める。
1ミリでも距離を縮めようと近づいていく。
次はちゅ、ちゅ、と啄むように何度も何度もキスを重ねて、
遠くでは波の音と若者たちのたてる音が聞こえ、
遠くの街灯のぼんやりとしたオレンジ色の光と、
やっぱり若者たちの気配とかたまに通り過ぎる車の音や気配とか。
確かな音と、音ではないから目を瞑っていてはわからないはずのものたちの音、
気配みたいなものが妙に色濃く感じられた。
それってあれなんだ。
これって、そうなの。
さっきと一緒。
2人だけの世界にまた、いるようだった。