第14章 蜂蜜
『…研磨くん、何だったかな?』
「…ううん、いい。 なんでもない」
『うん、そっか。 けど何だか嬉しいでは形容しきれない何かを感じてる。 ありがとう』
「……そろそろ行く?」
『そだね。 …誕生日のうちに研磨くんにおねだりしたいことがあるの』
「…なに?」
身体を起こして、まとめていた髪を解いて、
研磨くんに髪が当たらないようにそっと頭を揺らすと少しだけ砂が落ちたような気がした。
『…また後でいう』
「……ん、」
研磨くんは立ち上がって、手を差し伸べてくれる。
その手をとって、おとなしく立ち上がる。
おとなしくせず、そのまま引っ張って研磨くんに覆いかぶさってもらうのもいいなって思う。
けどもう今は、わたしたちだけの世界じゃないから、おとなしく。
それから手を繋いで、砂浜の上をゆっくりと歩いていく。
車の方へと、ゆらゆらと揺蕩うように。
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研磨くんと繋いだ手を軸に、というかなんというか
ふらふらと歩いていた。
伸びたり縮んだり、するわけないけどそんな感じで。
どうもほわほわしていて、まっすぐ歩くことができなかった。
「穂波」
『はーい』
もうすぐ砂浜の上からコンクリートに変わる、ちょっと手前で研磨くんに名前を呼ばれて。
へらへらと返事をして、そちらを向けば、遠いとは言えど道路にある街灯の灯りで、
かといって車のライトみたいに眩しくもない塩梅で、研磨くんの表情がみえる。
…甘い。
甘すぎて、優しすぎて、深すぎて。
それが幸せすぎて。
直視できなくなりそうになるのだ実は。
研磨くんが数日前にこちらに来てからというもの、
研磨くんのわたしを見つめる目が、とろけそうなほどに、甘い。