第14章 蜂蜜
ー穂波sideー
ぽつりぽつりと話しながら、
わたしは砂浜に寝そべって、
研磨くんはその横にしゃがんでわたしを優しく覗き込んで。
寄せては返す波の音、とは本当にそうで、
寄せては返す波の音に包まれて、
わたしたちだけの世界にいるみたい。
まだ22時にもなっていないはずなのに、すごく静かだ。
散歩の人も、遊んでいる若者もいない。
そんなことを思いながら横を向いていた身体をこてんと倒してぼけーっと空を見上げると、
研磨くんとぱちり、と目があった。
…気がした。
暗がりに目が慣れたと言えど、覗き込まれた影になってるその目線の先に何があるのかまではわからない。
でもきっと、目があった気がした。
研磨くんの手がわたしのこめかみに触れ、
ペタリとついた髪の毛と砂をやさしくはらう。
そのまま手のひらが頬を撫でて、わたしは猫のように目をつむってその心地よさに身を預ける。
ふっと唇に柔らかく暖かいものが触れて。
少しそのまま、その温度を。感覚を。
それからゆっくりと離れていくその速度に合わせるように、
ゆっくりと目を開く。
「……あいしてる」
研磨くんが真っ直ぐにわたしを見下ろし何かを呟いた、その時、
眩しい光が横からわたしたちを照らす。
…正確には照らしたわけじゃないけれど、
車のライトがちょうどそんな感じで。
近づいて来る音に、光に気がつかないほど、わたしたちは2人の世界に入り込んでいたんだろう。
その眩しさによって連れ戻された今は、車から溢れる大音量の音楽や若者…って同世代くらいだろうけど、
なんていうか若者って感じの声が耳に入ってくる。
そして研磨くんは咄嗟にわたしからその光を遮るように、身体を動かした。
それではっと気づく。
研磨くん、なにか、呟いてたなって。
でも、聞こえなかった。
とにかくすごく深く、優しいものを感じたってことだけは確か。