第14章 蜂蜜
ー穂波sideー
ぐって手首を取られたかと思うと、
研磨くんの腕の中、胸の中にすっぽりと身体が収まっていた。
こんな公共の場で、
学校とも空港とも違ってって場所で
研磨くんに抱きついていいのかなって思っていた矢先のことだったのでドキドキして仕方なかった。
ドキドキするのに安心して、
このまま研磨くんの身体に溶けていってしまいたくなるようなそんな時間。
「…デザートそろそろくるかな」
『…ん、そだね』
ゆっくりとお互いに身体を離して、
少しだけ見つめあって、
それから席に戻ろっか、っていう流れのとき、
額に軽いキスが落とされる。
ちゅって、軽い、キス。
文化や間柄次第で友達にも、ありうるようなそんな軽い、キス。
「…ふ かわいい」
意表をつかれてぽけっとしているわたしをみつめてふっと小さく笑って、研磨くんがそう言った。
それから席へと戻っていく。
その動きでわたしも魔法がとけたか、逆に魔法で動かされたみたいに席へと戻る。
場所が場所だったらひゅーとかなんとか、
他のお客さんたちの声が耳に入ってきたんだろうな。
でも、そういうのがなかったな、
だから自分達のペースでいられた気がするなって思って、
ふっと視線を周りにやると離れてはいるけど隣の席にあたるとこにいる女性と目があった。
すごく優しい顔をして静かに微笑んで、
声に出さず口パクでゆっくりと、
Thank you so much. It was beautiful.
と伝えてくれた。
どきっとも、恥ずかしい、とも思わなかった。
なんだかこころが温かくなって、こちらこそありがとうって気持ちになる。
そんな、穏やかな眼差し。
そんな空気に全体が溢れいていたのは、
このお店に集まる人たちだからなのか、
このお店の持つ空気なのか、
この日の空気なのか、それはわからないけれど。
ただでさえ特別で忘れがたいこの夜を、
一層忘れ難くさせてくれるような、そんな空気が漂っていた。