第3章 くじら
ー月島sideー
「俺は、そうだな… 行くよ、穂波ちゃんのとこ」
今までの赤葦さん… ってそんなよく知らないけど、
でも今までの感じだったら今日はいいかな、とかいうと思ったんだけど。
「…そうですか。じゃあ、まぁ、しょうがないですね」
「………」
「僕も…」
その時、スズメが穂波さんの上を飛び越すようにして玄関側に降り立った。
チュンチュンと鳴きながら。 3羽のスズメが。
こちらからは見えなかったけど、きっとこの3羽のスズメが前方にいたんだろうな。
だから、あの歌を連想して歌い出したのか…
そう想像するとさらに愛おしさが増した。
『あー!京治くんと蛍くんと …研磨くんもいる!』
スズメの動きに誘導されるようにこちらを振り返った穂波さんが
嬉々とした声、それでも落ち着いた声でそう言った。
僕と赤葦さんはばっと振り返る。
孤爪さんは僕の後方にいた。
…一体いつからいたんだよ、怖いんですけど。
『スズメも3羽、3人も3人♡』
よくわかんないことを嬉しそうに言って、
穂波さんは携帯をチェックした。
そして立ち上がり、
『みんなおはよう!良い朝だねぇ …こんなみんないるなら、もっとゆっくりしたくなるなぁ』
そんなことを言いながらこちらへと歩いてくる。
タイムオーバーか。
『調理室に行くね、良い時間を過ごしてね♡』
そう言って僕たちに笑顔を向け、
孤爪さんの頬にちゅっと口付けて去っていった。
…いやまた、変な3人残されたんだけど。
「…じゃ、僕は戻ります」
「俺はここで本読んでいくよ」
「…おれもっかい布団いく」
避けてるわけではないけれど、
穂波さんがこの場を去った今、
朝から一緒に過ごす理由もない3人はそれぞれに赴く場所へと散り散りになる。