第3章 くじら
ー月島sideー
『………〜〜〜♪』
昨日はあまり一緒に過ごせなかったし、ちょっと早めに寝た。
そしたら早めに起きれたから、
穂波さんのことだし早起きしてどこかにいるんだろうと校内を歩く。
玄関の扉がもう開いていて、
そしてそこから歌声が聞こえてきた。
穂波さんの声だ。
鼻歌は聞いたことあるけど、今はちょっと違う。
もうちょっとしっかり歌ってる。
こんなのは初めて聞いた。
でも鼻歌の時と変わりない力みのない声。
好きだな、と思った。
邪魔しないようにそっと歩いていくと…
「わ」
下駄箱を挟んで見えなくなっていたところに赤葦さんがいた。
…ちぇっ
あなたは昨日の夜たっぷり過ごしたでしょ?
僕、譲ったんだから。今日は僕に譲ってくれても……
ってそんなことしてたら延々譲り合いじゃん。
「あぁ月島。おはよう」
穂波さんに気付かれないようにだろう、
小さな声で赤葦さんが言う。
「お陰で昨日は… 俺も色々進んだ」
「…そうですか じゃあ」
「今日譲るよ、とかないから」
「ですよね、でも僕も赤葦さん先に来てたから、とかないんで」
「あぁ、そんなの望んでない …ただ」
「………」
「………」
「この歌の邪魔、したくないんですよね? わかります、同感です」
「だよな、でもこの曲ずっと歌ってるんだよね、どうも」
「………」
かの有名なレゲエシンガーといえば、なあの人の。
Three little birdsという曲を歌ってる。
たしかにあの曲は終わりどころを見失いそうだな、と想像する。
「ぷっ… 笑」
想像するとなぜか笑えてきた。
延々、この歌歌ってるのか。
何もかもうまくいくから、些細なことは心配しないでいいよ。
みたいな感じだろうか。
結局この歌が歌ってるのは。
穂波さんっぽい曲だな、と、
こうして歌声を聞いているとそう思った。