第3章 くじら
ー穂波sideー
夏の夜。
研磨くんと京治くんと並んで学校の敷地を歩いてる。
校門から玄関までがあっという間すぎて、
ゆっくりゆっくり歩いて、
それでもあっという間すぎて、
誰も何も言ってないのに、今、遠回りをして歩いてる。
並んで歩いてることがどうしようもなく幸せで。
なんだろな、大好きな人たち。
それから、研磨くんと京治くんがさっき醸し出してたユニット感?
… うまく言えないけどなんだかあった。同志っぽい感じっていうのかな。
なんの同志かはわかんないけど知らなかった2人の関係性にほわほわが止まらなくて。
京治くんの気持ちも考えずに手を繋いでしまった。
そしたら京治くんはいいよって言ってくれて。
だから今、3人で手を繋いで歩いてる。
夜の音駒の中庭を。
なんか、高校最後の夏休みって感じが猛烈に押し寄せてくる。
あぁ…とてつもなく、これは …エモい。
いと、をかし。
「…蛍、見たことある?」
京治くんがぽつりと。
『うん、あるよ。京治くんは?』
「子供の頃に、うん、2、3度見た記憶はある」
『久我山?』
「あぁ、うん多分。そうだと思う」
『そっかぁ… 研磨くんは?』
「ん? あ、おれも小さい頃に2回くらい連れて行かれた…かな」
『…久我山?』
「うん、そうだと思う。放流するやつ」
『うんうん。 2人とももう大きくなって』
「…?」
「…?」
『見に行こうと思えば自分で見に行けるのに。見に行ってないなんて!』
「笑」
『なんてね 笑 じゃあ、来年は一緒に行こう? できたら放流じゃなくて。
そこで生まれ育って、そこでまた子孫を残そうと光る子たちを』
「…ん、わかった」
「ん?でも来年穂波ちゃんは…」
『9月頃入学だから、蛍の頃はまだ日本にいるよ。きっと、一緒にみにいこうね』
「あぁ、うん。じゃあ、約束」
『やくそく…!』
「…?」
『…ん、約束』
あんまり、約束って言って約束したことがなかったから、
京治くんのなんでもない じゃあ、約束 の一言に妙に胸がキュンとした。