第13章 空
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『…ほんと、今日の夜風気持ちいいね』
湿りすぎてない、でも乾きすぎてない風が頬を撫でていく。
『空も、綺麗。カズくん、誘ってくれてありがとう』
「ん、」
半分くらいに満ちた月。
月が満ちていくときは、ぐんぐんとエネルギーが上へ上へといく感じがする。
海、山、川。
そういうものをもう一つ超えて。
空と風。
こういうのは本当に、何度も、というか毎日どこかで感じたり目にしているのに、
しっかりとある特定の一瞬を思い出すティップになる。
幼い頃から今までの、さまざまな人と過ごした大切な時間。
そうしてそれはそのまま、その人を想う時間になっていく。
会いたいな。
みんなにだけど、研磨くんに。
でもそれは口から音にしてしまうと、
一人歩きしてしまいそうで言わないようにしてる。
そういえば、研磨くんも言わない気がする。
夏休みはしっかり休もうって思っていたけど、
大学が始まってみれば学ぶことが楽しすぎてサマースクールも受けたい勢いで好奇心が膨らんでる。
今は秋学期。 その後の春学期のまた先のことだけど…
そうやってざっくりと考えると、会えるのは本当に四年後な気もしてくる。
だからね、会いたい気持ちはもうお互いに伝わってるから、敢えて言わずにいるんだろうと思う。
そしてきっとその言葉を口にするときがあるならばそれは、
会えることが決まったときなんだと思う。
「あの、さ」
『うん?』
「穂波、今週末いそがしい?」
『ううん、いそがしくないよ、今のところ』
「……パート撮りにスポットまで行くんだけど、一緒に来て」
『へ?え?そんな急に決まるの?』
「ううん、前から決まってたんだけど、急に泊まりで行くことになって」
『一緒に行っていいの? 何枠?』
「ガールフレンド」
『…そんな枠あるの?』
「…うん、ある」
カズくんの間がさっきから気になって仕方ない。
なんだろう、何を考えてるんだろう。