第13章 空
ー穂波sideー
「穂波、ケータイなってる」
家に帰って夕飯を食べて片付けをして。
さて明日の化学の予習をしようって思ってたらカズくんが携帯を持ってきてくれた。
『ありがとう、どこにあった?』
「玄関にあるスツールの上」
『あはは、ずっと置いたままだったのか、ありがとう♡』
「ん、おれアイス食べるけど穂波は?」
『よそってくれるの? お願いします♡』
「味は?」
『カズくんと一緒で♡』
「……いちいちハートマークつけないで良いから」
『え?』
「まぁいいよ、かけ直さないの?」
『ん、かけ直す』
カズくんがキッチンの冷蔵庫へと歩いていったので
わたしは研磨くんに電話をかけ直すことにする。
「もしもし」
『もしもし、研磨くん、電話ありがとう』
「…ふ、それってこのタイミングで言うことなの?」
『いわゆるそれは違うかもしれないけど… いまわたしにはしっくりくるの』
「…ふーん 何してた?」
『今から明日の予習をしようと思って』
「……化学、だっけ?」
『うん、そう♡』
わたしの時間割を研磨くんが把握してくれてるの、なんだか嬉しい。
『研磨くんは何してた?』
「おれは、ゲームしてた」
『今大学?』
「ん、」
『お昼は何食べた?』
「……」
『……』
「…今から食べる?」
『んふ、何で聞いたの』
「わかんない、今日は別にいらないなとか思ってた。
でも穂波の声聞いてたらお腹空いてきたかも」
『ふふ 買いに行く?』
「ん、次の講義まで時間あるし一旦出る。 …このまま電話してても良い?」
『良いよ、予習始めてても良い?』
「…いいよ」
お互いに受話器を耳に当てて手を止めて電話をすることもたくさんある。
電話の時間は大切に、大切に、したい。
でもこうやって、時折、お互いのやることをやりながら電話を続けたりもする。
離れがたい、切りがたいけど、やるべきこともやりたい。 のどっちもをとりたい。
そして不思議と、ちゃあんとそれは実現する。
電話してたから集中できなかった、とはあまりならないんだ、それは研磨くんの魔法。