第13章 空
ー穂波sideー
『じゃーん』
「ほぇぇ、なにこれ!!」
じゃーんもなにも、これは卵黄の醤油漬けである。
クーラーボックスに入れていたいくつかの要冷蔵度の高いもの、
(なるべくないように使い切ったけれど)
これだけは、というこの子たち4つだけ、翔陽くんのお家の冷蔵庫に入れさせてもらっていた。
明日の朝かな、お昼かな、なんて思ってたけど…
『この卵ね、ほんっとうに美味しいの。
でね、美味しすぎたからね、今朝もう一度買いに行ってね、治くんと漬けておいたの』
「え、治さんもいたの?っていうか角名さんと古森さんの話全然聞いてなかった!聞かせて!」
そんな感じで卵黄の醤油漬けから話は逸れに逸れながら、
お鍋を借りてお湯を沸かし、道の駅でつい手に取っていたうどんの乾麺を湯がいた。
乾麺のおうどん、しかもこれは太めのやつだからしっかりたっぷり時間があって、
翔陽くんと話は盛り上がるばかりだった。
ちらとみんなの方を見ると、翔陽くんが持ってきていたトランプを始めてて、
研磨くんもちょこんと参加してて、影山くんはもうすっごく眠そうで、たまらない光景がそこにあった。
「そっか、治さんはバレー続けてねーんだな」
『ね。 …翔陽くんちょっとだけ冷蔵庫のもの拝借してもいい?』
「へっ? あ、うん、大丈夫だと思う!」
『小ネギとあと麺つゆみたいなものがあるといいんだけど…』
「…ちょっと見てみる。 …っつーか話に夢中になりすぎた」
『…ん?』
「これもチャンスだろ?
あんな美味くてバランス取れた飯つくる穂波ちゃんと台所立てるなんて」
翔陽くんは冷蔵庫を開けてわたしの言ったものを探し出しながらそう言った。
…お言葉は嬉しいけれど、
卵黄の醤油漬け乗せのぶっかけうどんだなんて、その言葉を受け取るには少々申し訳ない感じがした。
麺つゆも出汁から取って作れたら話は変わってくるけれど……
「あ、麺つゆ3倍濃縮だって。これでいい?」
『うん、それとあとネギや生姜…海苔とか納豆とか?翔陽くんがおうどんに乗せたいものがあればなんでも』
「オッケー!その卵と食べるんだろ?
……じゃあ、穂波ちゃんが最初に言ってたのにする!」