第13章 空
「…うん、かわいい。 よく似合ってる。 横向いて?」
蛍くんはおろしていたわたしの髪を、高めの位置で一つに結った。
美容師さんやヘアメイクさん以外の男の人に髪を結われるのは、遊児くらいしか今までなくて。
首筋にあたる指先だとか、背中のほうにいる気配に、どきどきしてしまった。
そこからの、着飾ることのない蛍くんの言葉に、
言われた通りに横を向くことができないほどには、どきどきしていた。
「…何、どうしたの? あ、もしかして……」
にゅんっと後ろから覗き込むように、蛍くんがする。
咄嗟に反対側を向こうと思ったけどどうしてだろう、目線は蛍くんの方に動いた。
あの、イタズラな顔で覗きこんで、
そしたらあまりにわたしが赤面していたからか、はっとした表情に変わった。
「…照れてるんですね。 ほんとよくわかんない人」
『………』
「…ほら、顔洗うんじゃないの?」
『あ、うん』
そうだ顔を洗うんだった、って思うとラクになった。
熱ったものも幾分か落ち着くだろうし、
それに単純に気持ちを切り替えるにはちょうどいい。
タオルがないからハンカチを取り出して、蛇口をひねる。
顔を洗ってハンカチを置いてたとこに手を出すと、ふかふかのタオルがあった。
「それ、使って。 予備のやつ」
『ありがとう』
「…藍染か、りんごの古木で染められた薄オレンジのと迷ったんだけど…
髪の色に映えるかなって、うん、そっちにして良かった」
『…ありがとう。 嬉しい。 大事に、たくさん使うね』
「はい。 …じゃあ行きますか」
『はい、行きましょう』
「…なにそれ 笑」
そうして蛍くんと前、来た道の方へ歩き出した。
自転車置き場のそばとか経由して思い出して笑ったりして。
部室のとこまで辿り着くと、
階段に座ってゲームをする研磨くんと、
空いてるスペースでパス練をする翔陽くんと影山くん、
それを立ったまま見守る仁花ちゃんと山口くんが居た。