第13章 空
ー月島sideー
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『ひゃー、おもしろかったぁ。 …出来上がった絵を見るの、楽しみだなぁ』
「………」
美術室で溝口さんは僕らの写真を撮った。
「私のことは空気だと思って自由に過ごして!
…あ、窓際からは離れないで、あくまでもさっきの延長で」
そう言われても、とはもちろん思った。
でも、僕の隣にいる人は穂波さんなわけで。
そして彼女は目をキラキラさせて窓の外を眺めているわけで。
驚くほど自然に通常運転… 穂波さんといるときだけの通常運転で、時間を過ごした。
会話をしたりしなかったり。
博物館や美術館で共に楽しめる人だ、
窓の外の景色を一緒に眺めていても1ミリの無理もなくただただ、良い時間を過ごせた。
例え、同じ室内に写真を撮りたいという人がいても、それを忘れるほどに。
『…あ、携帯が。 ちょっと見るね』
「どうぞ」
『ん。 …もしもし研磨くん?』
穂波さんの肩にかかってるサコッシュからバイブの振動が聞こえ、
穂波さんは僕に一言断ってから電話に出た。
『うん、あと10分くらいいいかな? ちょっと寄りたいところがあって。
ん? そうそう、校内だよ。 …え? うん? あはは、それは、どうだろうね 笑』
孤爪さんと電話をしてる穂波さんの顔を初めて見て。
その表情に、思わず見惚れた。 それから、嫉妬も、した。
『…研磨くんからだった。 今翔陽くん着替えに行っ…』
電話の内容を伝えるため僕を見上げた穂波さんの肩に手を添え、口付けた。
スマホのシャッター音はもはや、蝉の鳴き声と同じようなものに感じた。
吹奏楽部の練習の音がちらほらと聞こえ、それはまさに穂波さんの言う通り、
その瞬間を確実に演出する、何かだった。
何度かキスはした。
そのどれもが忘れられない。
けれど、確かに、今までとは違う、何かを感じた。
嫉妬という感情を伴った、
僕のものだけであれ、
せめて今だけは僕のことだけを。
そういう類の何かを。