第13章 空
ー月島sideー
授業中、窓の外へ目線をやりながら、
シュシュを渡したあの日のことを思い出した。
──『…うわぁ。 …すごい』
僕が今年度通っている教室。
3年4組の教室。
ここの窓からの眺めは、良い。
もともと坂を登ったところにある高校で
三階からの景色はだいぶ良い。
「音楽室からが一番良いんだけど。あと美術室」
『そうなんだ… でも、十分だよ、十分すぎる。
遠くに海も見えるね。 …うわぁ、ほんと、綺麗。
蛍くん家はどっちにあるの?』
「僕の家は向こうの方。 …日向の家はあの山を越えたとこ」
『え、あの山?』
「うん、あの山」
『ひょえ〜… 翔陽くんってロードバイク乗ってきてるの?』
「…いや、普通の。 普通の自転車」
『ひょえー! ほんとすごい身体能力。 素晴らしいね、土台が、すごい』
「……」
きゃはは、と笑いながら日向がばびゅーんって飛ぶだとかだんって飛ぶだとか、
しばらく穂波さんは無邪気に話を続けた。
目線はずっと、窓の外にあった。 綺麗な瞳で、綺麗な表情で。髪を風に靡かせながら。
『ねぇ、蛍くん、ここからは見えないけどさ、』
はっと思い出したように話を切り出す。
身体を少し外に乗り出して、僕のいる方、右側の方を見ていた。
『あそこを曲がると、あの、去年の夏に昼寝したところがあるの? あ、わたしが』
「…あぁ、うん。そう」
『そっかー、ねぇ、後でそこも寄ってこう? 通るだけでいいから、さ?』
僕を見上げて、嬉しそうにそう提案してきた。
その上目遣いが、どれだけの破壊力があるのか、この人は知りもしないんだろう。
何一つ計算なんかなく、天然で、かましてくる。
「…いいよ」
『やったぁ!でももう少し、ここでこうしてよう?』
「……」
『ここは、蛍くんがいつも通ってる教室?』
「うん。 穂波さんに見せたいな、写真でも送ろうか。
いやでも写真は卒業のときにでもって思ってた、ずっと」
『…ずっと?』
「うん、ずっと」
ずっと? なんて言いながら、体勢をもとに戻す穂波さんは
僕をおとしにかかってるとしか思えない程に、かわいかった。