第13章 空
「お待たせ」
『うん、ここからの景色いいね、なんか、青春って感じ』
「青春… よくわかんないけど」
『…ふふ』
「ちょっとだけ時間くれる? 携帯持ってるよね?」
『え? …あ、うん、大丈夫、持ってる』
「じゃあ、連絡来るだろうし、ちょっとだから」
『うん。 …あ、』
「行きますよ」
手を差し出して、蛍くんがこちらを振り向く。
時間が止まるみたいな感じがした。
『…ん、』
差し出された手を取り、手を繋いで歩き出した。
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「ねぇ、穂波さん、目瞑ってよ」
『え? うん、わかった』
三階まで登ったところで蛍くんが言った。
目を瞑ると吹奏楽部の練習の音がさらによく聞こえた。
もう部活自体は終わったんだろう、合わせたものではなく自主練かな、というような音。
『…吹奏楽部ってすごいね』
「………」
『なんかさ、部活や委員会で放課後や夏休みに学校にいる子たちの学生生活をさ、
確実に演出… じゃないけど、演出してるなって。
彼らは彼らで一生懸命やってて、それがそんな風に作用してて、すごい。
この音、あるとないとで、全然違うと思わな…』
目を瞑って、と言われてたから、目を瞑ってた。
目を瞑ったまま、しゃべりたおしてたら、ふわっと口が塞がれた。
唇にあるのはもう何度か触れたことのある、蛍くんの唇の感触。
さわやかで、でも甘く、吸い付くように。
時間が止まったかと思うような、キス。
「…ごめん、そんなつもりで目を瞑ってって言ったわけじゃないんだけど」
『………』
薄目を開けて蛍くんを見上げるわたしの視界に、
困ったように眉を顰めて優しい顔でわたしを見下ろす蛍くんがいた。
「…もう一回、目、瞑っててくれる?」
『あ、うん。 はい』
「じゃあ、歩くね」