第3章 くじら
ー赤葦sideー
フラれるだとかそういうこと以前に、結果も何ももうわかっていたことだし、
その先に何かを求めているわけでは全くなかった。
いつかちゃんと想いを伝えるべきだとも、
そうしたいとも思っていた。
だからそれ自体に悔いなどはない。
だがしかし。
諦めろと言われると。
終わらせろと言われると。
途端に心に穴が開くような心地がした。
いや、心に空いた穴というより、
途端に足場が崩れていくような感覚、と言った方がしっくりくるかもしれない。
想いを伝えたその先に何も変化がなくとも。
ないのは承知で想いを伝え、
それでもなお、変わらず想い続けるものだと思っていた。
穂波ちゃんに恋する前の俺だったらそれすら不可能なことだと思っていただろうが、
穂波ちゃんという人と出会って、
交流していくうちに想いを伝えてもきっとこの子はこのままで、
俺の想いを受け止めて、それでも彼氏を一途に想い、
でもやはり、変わらずに俺との関係を大切にしてくれる。そう思った。
だから想いを伝えることそれ自体には恐怖も躊躇もなかったのに。
そして実際想いを伝えても、
少しの混乱はあったようだが最終的にその気持ちをありがとうと真っ直ぐ受け取ってくれた。
銭湯へ2人で歩いていくこと自体にも何の抵抗もないようだった。
…それなのに、変わること。変えることを選んでしまったのは俺だ。
そしてそれを見逃すことなく鋭く切りかかってきたのが他でもない孤爪なわけで。
ただただ、ぼーっとした。
穂波ちゃんに教わった、ただただぼーっとするということは。
今まではもっとほんのりと暖かく心地の良いものだったのに。
今回のぼーっとするは、本当に何かが抜け落ちたような。失ったような。
そう、真っ暗な感じがした。彷徨う、感じ。
しばらくぼーっと廊下を歩き、
それからぼーっとしたまま銭湯へ、
ぼーっとするあまり風呂セットを忘れてタオルなどを番頭で買い、
ぼーっとしたまま風呂に入り、
シャンプー流れてないぞ、とおじさんに注意され、
またぼーっとしたまま音駒への道を歩いた。