第13章 空
「うぉぉぉぉぉ…! 研磨ぁ!」
「穂波さん!」
想像するに容易い翔陽くんの研磨くんへの、熱烈な… 何?呼び声?と同時に、
想像もしていなかった影山くんの大きな、声。
翔陽くんの声に負けないほど、とは言えないけれど、
遠くから影山くんにあんな風に呼ばれるなんて思ってなくて
『っはい』
思わずそう答えてた。
「…っく 笑 確かに予想外だったけどそんな返事しなくても… わ、ちょっと…」
向かいでくすくすと笑う研磨くんに容赦なく翔陽くんが飛びかかって、
自ずとわたしと研磨くんはしばし、離れ離れになった。
「穂波さん、こんちわっす」
『あ、うん、おつかれさま』
「………今日日向の家に泊まるって聞きました」
『あ、うん?』
「…その、明日の夜って、どーっすか?」
『へっ?』
言葉が少なすぎてついていけない。
いつもの影山くん節に、やっぱり最初は間抜けな声を出してしまう。
慣れてくると普通にやり取りできるんだけど、久々だと…
「明日の夜、俺ん家来ませんか」
『………』
「………」
『んと、…』
「影山ー!差し入れにいただいたゼリー、選ぶ?俺がテキトーに選べばいい?」
山口くんの声で会話が、途切れた。
…別にぽんぽんと会話していたわけではないけれど。
「…ちょっと行ってきます」
『…あ、うん、選んできて。美味しそうなの、研磨くんから』
パウチタイプのゼリー。
いくつかの柑橘の種類があって、それを。
果肉も入ってて、パウチタイプではめずらしいね、って話しながら選んでた。
「今日練習終わりまでいるんすよね?明日も来ますか?」
『んーと、影山くん、そんなに焦らなくて大丈夫。
とりあえず休んで、ゼリー食べて、ね?
それからわたしは影山くんのバレーが見たい』
「……ぅす」
ぺこっておじぎをして、みんなのところに小走りで向かう。
いつだって影山くんは作り物のように美しい造形をしているなぁと、ぼんやりとその後ろ姿を眺めた。