第13章 空
ー穂波sideー
「それで、バイトはいついれるの?」
たまに見せる蛍くんの脆さみたいなもの。
否定はしたくないけどそんな風に思わないでって思ってしまう。
つい、それを言葉にしてしまった。
それがいいのかはわからないけど
話を続けているうちに蛍くんの声はふっと軽くなった。
『週末の朝から夕方とかかな』
「飲食店?」
『うん、憧れのお店があって。そこで長年勤めた方が独立して開いたお店。
小さくて、丁寧な、素敵なお店。この間ランチしたら週末どう?って言ってくれて』
「…へぇ。そもそも働いて大丈夫なの?ビザとか縛りあるんじゃないの」
『あ、うん、わたしはね、お兄ちゃんの家族っていうあれで…』
「あれで… 笑 コネじゃないんだから」
『いやでもずるいかなぁって… でもそう、学生ビザじゃないからバイトできるの。
そんな、がっつりじゃないけどね、学業とか遊びや趣味以外でも世界と繋がれる場所があるのは嬉しい』
大学、サーフィン、スケボーにダンス。
十分楽しいし(やることも多いし)広がっていく。
それでもやっぱり、働ける場所があるのはありがたい。
「ねぇ、穂波さん」
『んー?』
「踊りは、大学以外でも続けてる?」
『ん?レッスンは受けてないけど、毎日踊ってるよ』
「…動画とかないの?」
『動画?』
「動画。穂波さんの踊りが見たい。僕らが話し出したきっかけ、覚えてる?」
『…うん、忘れるわけないでしょ』
「動画より生がいいけど、でも時折無性に見たくなる。
あの、黒尾さんたちの卒業のサプライズライブで踊り出してるやつしかないから」
『……』
「動画考えてみてよ」
『え?』
「いや別に僕に直接送ってくれればいいんだけど…
もう時間もないって思ってるからか、何言いたいのかわからなくなってきた」
『あ、うん、そうだよね、これからHRだ。
それじゃあ今日はこの辺で、だね。蛍くん、またね』
「うん、穂波さんも… これから海だっけ?
気をつけてね。 …あ、あと」
『……』
「すきです。 …じゃ、」
love youとはニュアンスも重みも違って聞こえる、
その言葉を残して電話を切られる側の気持ち、蛍くんはわかってやってるのかな…